りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

逃げゆく物語の話(大森望編)

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大森望さんの編んだ「ゼロ年代日本SFベスト集」ですが、もはや「SF」というジャンルは何を意味しているのかわからないほどに拡散しているようです。ファンタジーとのクロスオーバーは、初期のSFから顕著でしたが、今ではライトノベルとも純文学とも融合しており、SFの定義は難しくなっています。まあ、ジャンルにこだわる必要もないのでしょう。

三崎亜記「彼女の痕跡展」
記憶の曖昧さをテーマにした作品です。この数年、恋人などいなかったものの、恋人を失ったという圧倒的な喪失感に襲われた主人公は、「彼女」との暮らしの「痕跡」を展示するという展示会に入るのですが・・。

乙一「陽だまりの詩」
ほとんどの人類が死に絶えた時代、ある男によって製造されたアンドロイドの役割は、その男の最期を看取ることでした。ともに過ごした短い期間の間に「心」を感じたアンドロイドは、その後の長い孤独を恐れるのですが、その男の正体もまた・・。

古橋秀之ある日、爆弾がおちてきて
トキメキが高まると爆発するという「女の子型」の超爆弾と遭遇した主人公は、彼女の可愛さに引きずられてしまいドキドキ感を止められません。でも自分の時間が止まる時に、世界を道連れにしてよいのでしょうか。

森岡浩之「光の王」
自分だけでなく、誰もが「先週の水曜」のことを思い出せません。その日、人類は滅亡していたのです!!!

冲方丁マルドゥック・スクランブル“-200”」
人気シリーズのスピンオフ小説です。万能兵器として開発されたネズミ型知性体ウフコックが、狂気の美少女を守るために異形の敵と対決するのですが・・。本編も読んでみたくなりました。

石黒達昌冬至草」
無学で薄倖な男が戦時中の北海道で発見した新種の花の養分は、人の血だったのです。その花の研究に全てをかけた男の執念が怖い!

津原泰水「延長コード」
家出した娘の訃報に接した父親が訪れた、娘の亡くなった部屋には大量の延長コードが遺されていました。父親は延長コードを繋いで明かりを灯し、窓の奥に広がる暗い森に入り込むのですが・・。

北野勇作「第二箱船荘の悲劇」
知人の住む安アパートは、まるでひとつの宇宙空間。全体像がわからないものを、断片的な情報で分析していく滑稽さは、現代宇宙論に対する皮肉なのでしょうか。

小林泰三「予め決定されている明日」
厖大な算盤計算で作り上げられた仮想空間には、コンピューターなるものがありました。作業に疲れた男はそれを利用しようとするのですが・・。

牧野修「逃げゆく物語の話」
ブラッドベリの『華氏451度』の世界で焼却処分された本に意識があったら、何を思うのか。バカバカしい発想ですが、怖いテーマを持つ作品です。

他には恩田陸「夕飯は七時」山本弘「闇が落ちる前に、もう一度」がありますが、別の短編集で紹介済みです。

2013/4