りぼんの読書ノート

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続明暗(水村美苗)

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漱石の死とともに未完に終わった『明暗』は、津田が新妻のお延をいつわって、かつての恋人清子に会おうと温泉に向かった所で絶筆となっています。本書はその「続編」を書ききろうとする極めて野心的な試みであり、まずはその勇気に拍手。

『明暗』のテーマは「清子がなぜ津田を見限ったのかと」いうことにつきるようですが、もちろん本書はその問いへの答えまでしっかりと書ききっています。清子いわく「貴方という人は、最後のところで信用できない」ということなんですね。そして津田の性格、優柔不断で決断できないままに問題を先送りして、決定的な地点まで流されてしまうという性格が、お延を追い詰めて行くのです。

そんな津田を選んでしまったことに絶望したお延は、津田を追っていった温泉の先にある滝に身投げをしようとするのですが、思いとどまります。自然の雄大さによって個人の不幸などというものの小ささに気づかされるという思想は、明治という時代にはそぐわない気もしますが、現代の読者を念頭に置いた本書においては問題ではありません。

「偉大な漱石の作品の続編」としてではなく、小説として読者が楽しめるかどうかを意識して書いたという趣旨のことを著者が述べていましたが、その試みは成功しています。漱石の文体に似ているかとか、漱石の人物造形と整合しているかなどということは、途中から気にならなくなりましたから。

2013/4