りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

フリーダム(ジョナサン・フランゼン)

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パティとウォルターのバーグランド夫妻を中心とする30年間の物語は、1980年代のレーガン政権時代から始まります。大学バスケットボールの花形選手だったパティは、リチャード・カッツ率いる学生バンドを聴きにいき、リチャードの親友だったウォルターと知り合って結婚しますが、心の底ではリチャードを愛していたのです。実はリチャードもパティに魅かれていたのですが・・。

結婚から約20年。ミネソタ州セントポールに居を構えた2人は娘と息子にも恵まれ、リベラリストとして幸せな家庭を築いてたように見えたのですが、長女ジェシカが東部の大学に進学した頃から雲行きが怪しくなってきます。それは、9.11テロ以降のアメリカがリベラルさを失って戦争へと進んでいった時期と符合しているんですね。

クールな息子ジョーイが両親に叛旗を翻し、隣家の娘コニーと同棲。鬱気味になったパティを残して、ウォルターは過激な環境保護運動にのめりこんでいきます。それは、ブッシュやチェイニーの友人でエネルギー業界の大物と組んでアパラチア山脈の石炭を採掘した後に絶滅危惧種の野鳥保護区とするという、破壊なのか保護なのかわからない活動でした。パティは有名ロッカーとなっていたリチャードと再会して「過ち」を犯すに至ります。

それだけでは終わりません。ジョーイはコニーの金をイラク戦争がらみの怪しげな仕事につぎ込み、ウォルターは若い美人助手に心惹かれていくのです。優等生のジェシカは、そんな両親とも弟とも距離を取りはじめ、家族から離れていくかのよう。

登場人物たちは皆「普通の善き人」たちなのに、どんどん不幸へと突き進んでいくようです。その根底にあるのは、タイトル通り「自由」のなせる業なのでしょうか。「「自由の国」アメリカで「自由」があちこちで衝突を起こしているように、不幸に至る誤った道の選択もまた「自由」なのでししょうか。

最後に仄見える希望的な未来にたどり着くまで700ページを超える長編ですが、一気に「読ませてくれる」作品です。家族を巡る物語でありながら、語られているのは時代と社会です。そういえば、オバマ大統領も休暇中に本書を読んだと、昨年話題になっていました。

2013/4