りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

2022/5 Best 3

1. プラヴィエクとそのほかの時代(オルガ・トカルチュク) ポーランドの辺境にある架空の村は宇宙の中心であり、四方を守護天使たちに護られているものの、激動の20世紀の世界情勢とは無縁でいられません。ロシア領から独立ポーランドへ、独ソ戦の最前…

わたくしが旅から学んだこと(兼高かおる)

著者が1959年にTV番組「兼高かおる世界の旅」を開始したのが31歳の時のこと。番組が終了した1990年の時には62歳になっていました。2010年に著した本書で著者は「人生3分割」と持論を語っています。「最初の1/3はあとで世の中の役に立…

光まで5分(桜木紫乃)

「桜木さんの作品なのに沖縄が舞台?」との疑問はすぐに解消されます。主人公のツキヨは、北海道の東の果ての街から流れ流れて沖縄にやってきて、そのまま住み着いてしまった女性だったのです。振り払いたい過去の記憶から逃れるためには、生まれ育った場所…

ネザーランド(ジョセフ・オニール)

タイトルの「ネザーランド」はオランダのことではなく、17世紀半ばまでオランダ領であったアメリカのニューヨーク近辺のことのようです。「低地」を意味するこの言葉には「地下の国」という意味もあるとのことで、本書は死者を悼む記憶の物語でもあるので…

鯖猫長屋ふしぎ草紙 8(田牧大和)

かつての義賊「黒ひょっとこ」で今は画描きの青井亭拾楽が、不思議な力を持つオス三毛猫サバと長屋で暮らす、ちょっと不思議なお江戸ミステリの第8弾。本作も拾楽の過去や将来とは直接関わらない物語なのは、このシリーズを長く楽しもうという著者の思いに…

鯖猫長屋ふしぎ草紙 7(田牧大和)

かつての義賊「黒ひょっとこ」で今は画描きの青井亭拾楽が、不思議な力を持つオス三毛猫サバと長屋で暮らす、ちょっと不思議なお江戸ミステリの第7弾。拾楽の過去に関わる物語も多いシリーズですが、前作あたりからは長屋の人々を巻き込もうとする禍々しい…

灼熱(葉真中顕)

第二次世界大戦の直後、南米ブラジルの日本人移民社会には日本の敗北を信じようとしない「勝ち組」なる人々が多く生まれました。奥地の開拓村には正しい情報が届かず、ポルトガル語の新聞やニュースも理解できなかったことも理由でしょう。しかしそこには、…

月と日の后(冲方丁)

中宮彰子の印象というと、紫式部、和泉式部、赤染衛門らを輩出して王朝文化の絶頂期を生み出したパトロンであったこと。父親の藤原道長が天皇の外戚として権力を得るために、一条天皇の幼妃として送り込まれた娘であったこと。道長の意に反して先后・定子の…

ファラゴ(ヤン・アペリ)

フランスには「高校生が選ぶゴンクール賞」という文学賞があり、本書はその受賞作とのこと。この賞の受賞作はレベルが高くて本の売れ行きにも影響するとのことなので、選考基準や過程は異なりますが「本屋大賞」のような役割を担っているのかもしれません。…

錠前破り、銀太 首魁(田牧大和)

デビュー作に端を発する「濱次お役者双六シリーズ」のスピンアウトで、『緋色からくり』の女錠前師・緋名も登場するこのシリーズも、第3作にあたる本書で区切りがついたようです。 歌舞伎女形の濱次や緋名も通う蕎麦屋の銀太、秀次の兄弟が主人公。彼らの幼…

宰相の象の物語(イヴォ・アンドリッチ)

ボスニア出身のノーベル賞作家が「自らの小祖国」を舞台として紡ぎあげた短編集です。著者の代表作である長編『ドリナの橋は、オスマントルコ、ロシア、ハプズブルク、ドイツなど周辺諸国の係争地となってきた小国の悲劇を歴史的に綴った作品ですが、本書で…

トラウマ・プレート(アダム・ジョンソン)

著者は1967年にサウスダコタで生まれ、アメリカ各地の大学で学位を取得した後にスタンフォード大学の嚆矢となり、2002年に本書で作家としてのデビューを果たしています。「テーマも題材も設定も語り口も味わいもそれぞれにユニーク」な9編からなる…

サムのこと 猿に会う(西加奈子)

著者の初期の3篇が編まれた短編集ですが、女性アイドルグループメンバーによるドラマ化に合わせて202年3月に出版されました。3作とも「何かが動いた瞬間」を力強く切り取った作品ですが、ドラマではアイドル主演ということで、かなりの変更が加えられ…

ノック人とツルの森(アクセル・ブラウンズ)

ドイツでも「ゴミ屋敷」の問題は頻発しているそうです。家の中を身動きもできないほどゴミで埋め尽くす住人の多くは、ひとり暮らしで精神を病んでいるのでしょうが、子供がいる場合には事態は深刻になります。親が子供の養育を半ば放棄していても、子供は外…

十二月の十日(ジョージ・ソーンダーズ)

ブッカー賞を受賞した『リンカーンとさまよえる霊魂たち』は、病死した息子の霊に救われるリンカーン大統領の物語でしたが、こちらは短編集。もともと短編小説の名手のようで、荒唐無稽なSF的設定が社会を風刺する装置となっていたり、救済や希望を感じさ…

行く、行った、行ってしまった(ジェニー・エルペンベック)

中東や北アフリカでの紛争を背景としてヨーロッパに流入し続けた難民のピークは2016年でした。はじめは積極的に難民を受け入れていたドイツも、最終的にはトルコなどヨーロッパ手前の国に難民の通過を認め内ように依頼したことで流入は減少。さらには永…

東京のぼる坂くだる坂(ほしおさなえ)

アラフォーで母と二人暮らしの蓉子が、幼い頃家を出ていった父の訃報をきっかけに、東京中の坂を転居して回った父の足跡を辿り始める物語。幼い頃の娘に向かって「のぼり坂とくだり坂のどちらが多いか」というなぞなぞを出していた父親は、なぜそれほどまで…

プラヴィエクとそのほかの時代(オルガ・トカルチュク)

舞台となるプラヴィエクは、ポーランド南西部の国境地帯にあるとされる架空の村のこと。ここは宇宙の中心であり、四方を守護天使たちに護られているものの、激動の20世紀の世界情勢とは無縁でいられません。物語が始まった時にロシア領であった村は、やが…

夏の家、その後(ユーディット・ヘルマン)

1970年生まれの著者はドイツの「ゴルフ世代」だそうです。フォルクスワーゲン・ゴルフに代表される消費文化につかり、日常生活のクォリティを大切にし、国境を超えて移動することに馴れているグローバル世代。そんな世代の著者による短編集は、これまで…

スモモの木の啓示(ショクーフェ・アーザル)

「イラン・イスラーム革命に翻弄される一家の姿を魔術的リアリズムの手法で印象的に描く傑作」というのが、翻訳家の堤幸さんが本書の内容を簡潔に紹介した言葉です。これ以上の表現が思いつかないので、そのまま引用させていただきました。 語り手は一家の末…

田舎のポルシェ(篠田節子)

ロードノヴェルというと、広大な北アメリカや、国境が入り乱れる欧州の旅を思い起こしますが、日本だって捨てたものではありません。登場人物の思いを乗せて車は走るのです。ただし実際に走ったことがある道が大半なので、旅のスリルが半減してしまう感じが…