1. プラヴィエクとそのほかの時代(オルガ・トカルチュク)
ポーランドの辺境にある架空の村は宇宙の中心であり、四方を守護天使たちに護られているものの、激動の20世紀の世界情勢とは無縁でいられません。ロシア領から独立ポーランドへ、独ソ戦の最前線から東欧ブロックへ、さらには連帯運動が起こったりと、世界は村を放っておいてはくれないのです。やがて物語の中心となる大家族の最後の一人も村を離れていきますが、それは村の滅亡を意味しません。むしろ世界へと広がる菌糸がネットワークを築いていく過程のように思えます。
2.ネザーランド(ジョセフ・オニール)
タイトルの「ネザーランド」はオランダのことではなく、17世紀半ばまでオランダ領であったアメリカのニューヨーク近辺のこと。9.11テロの後に妻子を帰国させ、ニューヨークで単身赴任生活をするオランダ人のハンスは、少年時代にたしなんでいたクリケットを再開。非白人移民社会の人々と交流を深めていく中で大都会の裏の姿を知ったことが、彼に人生を見つめ直す機会を与えてくれるのです。
3.灼熱(葉真中顕)
第二次世界大戦の直後、南米ブラジルの日本人移民社会には日本の敗北を信じようとしない「勝ち組」なる人々が多く生まれました。情報の不足がもたらした悲劇ですが、そこには、自分が受け入れたいことしか信じないという人間の本性を悪用した詐欺師たちの存在もあったようです。それは情報が氾濫する今日においても同様であり、本書は現代社会に対する「警鐘の書」でもあるのです。
【次点】
・行く、行った、行ってしまった(ジェニー・エルペンベック)
・ファラゴ(ヤン・アペリ)
・月と日の后(冲方丁)
【その他今月読んだ本】
・田舎のポルシェ(篠田節子)
・スモモの木の啓示(ショクーフェ・アーザル)
・夏の家、その後(ユーディット・ヘルマン)
・東京のぼる坂くだる坂(ほしおさなえ)
・十二月の十日(ジョージ・ソーンダーズ)
・ノック人とツルの森(アクセル・ブラウンズ)
・サムのこと 猿に会う(西加奈子)
・トラウマ・プレート(アダム・ジョンソン)
・宰相の象の物語(イヴォ・アンドリッチ)
・錠前破り、銀太 首魁(田牧大和)
・鯖猫長屋ふしぎ草紙 7(田牧大和)
・鯖猫長屋ふしぎ草紙 8(田牧大和)
・光まで5分(桜木紫乃)
・わたくしが旅から学んだこと(兼高かおる)
2022/5/30