りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

2022/2 Best 3

1.シブヤで目覚めて(アンナ・ツィマ) 日本留学の経験があるとはいえ、チェコの小説家が作り上げた大正期の作家「川下清丸」のリアリティは半端じゃありません。チェコで実在した人物であると誤解されたのは当然でしょう。私も信じてしまいそうになったほ…

王朝日記の魅力3『和泉式部日記』の魅力(島内景二)

「恋多き奔放な女性」との印象が強い和泉式部ですが、平安時代を代表する女性歌人としても有名です。同時期に中宮彰子に仕えていた紫式部は和泉式部のことを誉めたり貶したりしていますが、彼女の和歌については「理論的ではないが匂いがある」と評価してい…

王朝日記の魅力2『更級日記』の魅力(島内景二)

NHKラジオ講座「古典講読」を担当している著者が、講座内で語り切れなかった王朝日記の魅力を綴った作品です。第1章が「蜻蛉日記中巻」、第2章が「更級日記」、第3章が「和泉式部日記」という構成になっていますが、独立している2章と3章を読んでみ…

きのうの影踏み(辻村深月)

『文豪ストレイドッグス外伝(朝霧カフカ)』に異能者として登場する作家・辻村深月が操る能力が「きのうの影踏み」と名付けられていたのですが、この本をは未読でした。文庫を手にしてみたら、解説が朝霧カフカさんということでびっくり。もうこのあたりか…

惨憺たる光(ペク・スリン)

書肆侃侃房による「韓国女性文学シリーズ」の第6弾にあたります。タイトルからして矛盾に満ちた言葉なのですが、これは単純な光と闇の対比を意味するものではなさそうです。「光は闇の中でのみ揺らめくことができる」のと同様に、「幸せは痛ましい何かを背…

じんかん(今村翔吾)

とっくに全てが書きつくされたとも思える時代小説というジャンルにも、時折新しい視点が入ってくることがあります。SF的要素や伝奇的要素、あるいは現代的な視点に頼らずに新風を持ち込むことは想像するだけでも困難なのですが、本書はそれに成功していま…

童の神(今村翔吾)

「童」という漢字の成り立ちには、目の上に刺青を入れて重荷を担ぐ奴婢という意味があるそうです。平安時代に、夷、滝夜叉、土蜘蛛、鬼、犬神、夜雀などと呼ばれて京人から蔑まれていた、中央にまつろわぬ地方人たちは、ひっくるめて「童」と呼ばれていたと…

批評の教室(北村紗衣)

「批評とは作品を楽しむためにある」と言い切る著者が、批評を「精読する」「分析する」「書く」の3つのステップに分けて、その手法を解説する入門書です。ここでいう「作品を楽しむ」とは、単に面白かったという感想を持つことにとどまりません。ある作品…

アクティベイター(冲方丁)

「マルドゥック・シリーズ」や「シュピーゲル・シリーズ」などのSF作品や、『天地明察』や『光圀伝』などの時代小説を書いてきた著者ですが、現代日本を舞台とする小説ははじめてだそうです。 物語は衝撃的です。突如飛来した中国の最新鋭ステルス爆撃機の…

ヴィオラ母さん(ヤマザキマリ)

『テルマエ戦記』を読んで、規格外の漫画家ヤマザキマリさんを産み育てた、破天荒な母親リョウコさんに関心を持ち、本書を読んでみました。すごい。まるで「朝ドラ」のような人生です。 簡単に略歴を纏めてみましょう。1933年に神奈川県鵠沼で生まれ、お…

テルマエ戦記(ヤマザキマリ)

『テルマエ・ロマエ』で一躍有名漫画家となり、最近では塩野七生さんに変わってイタリアに詳しい文化人の役割を担っているヤマザキマリさんのエッセイです。ローマと日本の比較風呂文化論ともいえる独創的なマンガが生まれ出た背景から、それが大ヒットとな…

指差す標識の事例 下(イーアン・ペアーズ)

上巻で見てきた物語のアウトラインは、下巻に入って大きく崩されていきます。これまでの2人の語り手のどちらもが、信用できないことが明らかにされるのです。とはいっても、下巻の2人の語り手だって怪しいものなのですが。 第三の手記「従順なる輩」 オク…

指差す標識の事例 上(イーアン・ペアーズ)

「『薔薇の名前』とアガサ・クリスティの名作が融合したかのごとき、至高の傑作!」とコピーにありましたが、期待を裏切らない傑作でした。1663年、クロムウェルが没して王政が復古したチャールズ2世治下のオクスフォードで起こった大学教師の毒殺事件…

文豪ストレイドッグス外伝 綾辻行人VS京極夏彦(朝霧カフカ)

「文豪ストレイドッグス」というアニメがあることは知っていました。中島敦、太宰治、国木田独歩、与謝野晶子、芥川龍之介らの文豪たちがキャラクター化され、彼らの作品に由来する異能を駆使してバトルを繰り広げるという設定の物語。中島の「月下獣」、太…

世界の辺境とハードボイルド室町時代(高野秀行/清水克行)

タイトルこそ村上春樹作品のパロディですが、内容の深さに驚かされます。ミャンマーやソマリランドなどの辺境を愛する冒険家兼ノンフィクション作家と、日本中世史を専門とする歴史学者との対談から生まれた本書は、常識的な世界観を小気味よいほどに覆して…

シブヤで目覚めて(アンナ・ツィマ)

日本に留学した経験があるとはいえ、チェコの小説家がどうしてこんな小説を書けるのでしょう。著者が創造した大正時代の作家「川下清丸」が実在した人物であると、チェコで誤解されたというのも無理はありません。彼の略歴と作品には、日本人ですら信じてし…

類(朝井まかて)

森鴎外はドイツ留学中に自分の名前が正しく発音されずに苦労したことから、子供たちに外国人風の名前をつけるようにしたそうです。長男・於菟( オットー)、長女・茉莉(マリー)、次女・杏奴(アンヌ)、次男・不律(フリッツ)、三男・類(ルイ)ですから…

わたしの美しい庭(凪良ゆう)

「疑似家族」というものがはじめて小説に登場してきたのは、宮部みゆきさんの『理由』だったかもしれません。当時は利害のみで繋がった空虚な関係とされた「疑似家族」ですが、最近ではハートウォーミングな関係として描かれることが多いように思えます。遺…

アンニョン、エレナ(キム・インスク)

福岡を拠点に様々な出版活動を行っている書肆侃侃房による「韓国女性文学シリーズ」の第1弾として刊行された作品です。もともとは「Woman's Bestシリーズ」の第4弾だったのですが、本書の存在感がシリーズのあり方を変えてしまったようです。「韓国女性文…