りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

わたしの美しい庭(凪良ゆう)

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「疑似家族」というものがはじめて小説に登場してきたのは、宮部みゆきさんの『理由』だったかもしれません。当時は利害のみで繋がった空虚な関係とされた「疑似家族」ですが、最近ではハートウォーミングな関係として描かれることが多いように思えます。遺伝子で結びつけられた逃れようもない関係よりも、自分が選び取った人間関係のほうを重視したいという気持ちの現われなのでしょうか。

 

本書もそんな関係を描いた作品です。親から引き継いだマンションの屋上に祀られた神社の神主で、翻訳家でもある統理は、小学生の百音と同居しているのですが、2人の間には血縁関係はありません。百音は別れた妻が再婚相手との間に生んだ娘であり、その2人が事故死したことで、身寄りのいない百音を引き取ったのです。さらに同じマンションに住むゲイの路有が毎朝2人に朝食を作ってくれるとなると、もう常人の理解を越えているのですが、本人たちが満足しているなら問題はありません。

 

ところでマンション屋上の神社は、「いろんなもの」が心に絡んでしまった人たちが訪れる「縁切り神社」でした。高校時代に事故死した彼を忘れられないまま中年になろうとしている病院勤務の桃子。修羅場製造機である元彼を指すれ切れない路有。亡くなった兄をコンプレックスから鬱に陥った基。彼らはまだ自分が求めているものに気付いていないようです。世間の目にさらされる中で思いやりとか違いを認め合うことの大切さに気付きつつある幼い百音のほうが、引き算を必要としない分、学びは速いのかもしれませんね。

 

2022/2