りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2005/6 ミドルセックス(ジェフリー・ユージェニデス)

1位の『ミドルセックス』は、『私の名は紅(あか)』や『その名にちなんで』とならんで、年間ランキングでも上位に入る傑作です。伊坂幸太郎さんとの出会いも、今月のトピックスですね。
1.ミドルセックス (ジェフリー・ユージェニデス)
両性具有の少女が語る、アメリカに移民したギリシャ人一族の歴史は、まるで「現代の遺伝子学がギリシャ神話の運命論と結びつく」一大叙事詩。トルコとの戦争で炎上するスミルナから、禁酒法時代のデトロイトに舞台を移して語られる、祖父母の結びつきに隠された秘密とは・・。そして美しい少女だったカリオペに訪れる「運命の日」。深いテーマでありながら、読後感は爽やかです。

2.本格小説 (水村美苗)
嵐が丘」を現代日本に甦らせた野心作。作者の狙いは純文学の復権? そもそも、なぜ、あえて「嵐が丘」なのか? 「前置き」で、作者の履歴の中に本書の主人公を忍び込ませ、本書を書くに至った必然性を説明し、三重の「入れ子構造」で語るのは、「私小説」から「本格小説」への橋渡しをスムーズに行うため? そこまでしてなお、むしろそこまでするから、物語はリアリティを失います。もちろん、作者は全部わかってやっています。

3.重力ピエロ (伊坂幸太郎)
村上春樹にも似た「上質な軽さ」を感じます。異父兄弟である、泉水と春が追う連続放火班の正体と目的は? 「捜査」の過程で紹介される、泉水と春の家族が素晴らしい。「空中ブランコを飛ぶピエロは一瞬だけ重力を忘れることができる」とのタイトルは、「大変なことこそ、軽々とクリアしなきゃいけない」ってことですね。「本当に深刻なことは陽気に伝えるべき」なのです。



2005/7/4