りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007/4 テロル(ヤスミナ・カドラ)

今月のイチオシは、早川書房で新しく始まった「ブック・プラネット」叢書からいきなり2冊連続して出版されたヤスミナ・カドラさん。中立的な視点から「イスラムの声」を伝え続け、高い評価を得ている作家ですが、彼のペンネームは女性名。フランスに亡命する前のアルジェリア軍の将校時代に、軍の検閲を避けるため、妻の名前で作品を発表していたそうです。
1.テロル (ヤスミナ・カドラ)
『カブールの燕たち』に続く「紛争都市3部作」の第2作の舞台はイスラエルイスラエル帰化して、外科医を務めているアラブ人のアミーンの妻シヘムが、自爆テロの犯人として遺体で発見されます。現在の豊かな生活に満足しているかに見えた妻が、なぜテロリストになっていたのでしょう。妻の本当の姿を探しに、パレスチナに入ったアミーンが見たものは・・。

2.石の葬式 (パノス・カルネジス)
1960年代の、ギリシャの貧しい片田舎の村を舞台にした連作短編集。貧しく、孤独で、偏屈で、理不尽さに耐えて生きている村人たちの生活を描く物語は、決して単純な「善人賛歌」ではありません。皆、時には貪欲で、時には残酷で、まるで現代のギリシャ神話のよう。

3.イリアム & オリュンポス (ダン・シモンズ)
遠い未来、火星のオリュンポス山に棲みつき、人間たちにトロイ戦争を再現させている古代ギリシャ神話の神々。一方、地球では100万人に減少した人類が、自動機械の下僕たちに保護されながら、怠惰な生活をおくるだけの存在に成り果てていました。名手が描いた不思議な世界の謎を解く鍵が、なんとシェークスピアだったとは!

4.赤朽葉家の伝説 (桜庭一樹)
中国地方で製鉄業を営む一族の女性たちが織り成す、不思議な物語。千里眼を持つ祖母・万葉に、暴走族から人気漫画家になった母・毛鞠。そして、何者にもなれず悩む娘・瞳子。3代の女性の物語は、戦争直後から現代までの、時代の空気を写しだす歪んだ鏡のようです。

5.消えた少年たち (オースン・スコット・カード)
ノースカロライナの町に家族で引っ越してきたモルモン教徒の一家は、子供たちを守りながら必死で生きていくのですが、この町では少年の行方不明事件が頻発していたのです。ラストの20ページで明かされる衝撃の真相には、読む価値あり。その前の900ページ近い長い導入部は、引っ張りすぎなのですが・・。




【今月のがっかり】
大統領特赦 (ジョン・グリシャム)



2007/5/3