りぼんの読書ノート

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リヴァイアサン号殺人事件(ボリス・アクーニン)

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日本語の「悪人」からとったというペンネームのロシア人作家による、高村薫さんも絶賛していたグランド・ミステリー。

19世紀末のパリで発生した大富豪殺人事件。盗まれたのは、富豪が蒐集していた、インド秘宝のコレクション。手がかりは、インドへ向かう豪華客船リヴァイアサン号の乗船バッジ。客船に乗り込み、怪しい船客を対象に操作を開始するパリの警部。そこに乗り込んできた、主人公のロシア人青年・ファンドーリン。

作者は日本通とのことで、ファンドーリン君は日本へ向かう途中です。この後、日本を舞台にしてシリーズが続くとのことですが、本書でも島津公に仕える武家の三男という日本人を登場させています。本書の楽しみは謎解きだけでなく、19世紀末という時代における比較文化論になっていることにもありますね。

自らにかけられた容疑を晴らすより、彼にとって「恥」であることを告白しないほうが重要であると思う日本人武士の心情は、西洋人にとっては理解できないものでしょう。このあたり、上手に物語に取り込んでいます。一方で、ロシア人についても「本質的に半分東洋人」として、西洋の個人主義と、東洋思想の間を揺れ動く存在でもある当時のロシアの悩みをもらしたりもしています。この悩みはロシア革命後も続くのですが・・。

犯人逮捕寸前の場面で、登場人物たちが、出身国であるイギリス、フランス、ベルギーなどを代弁して、財宝の権利を主張する場面も面白いですね。もともとインドの財宝なのに、インドに返還するなんて意見は出ないのです。「西洋と東洋の中間にいる」ロシア人主人公としては、西洋列強の帝国主義的な見解にあっさり同意するわけにはいきません。ファンドーリンが、財宝(正しくは財宝へと至る手がかり)を、どのように扱ったのかが、本書で一番魅力あるポイントかもしれません。

ミステリーは苦手だけど、このシリーズ、もう少し読んでみようかと思います。

2007/5