りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

少女七竈と七人の可愛そうな大人(桜庭一樹)

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とても燃えにくく、七度竈に入れなくてはよい炭にならないという七竈。あまりの堅さに、とても食べられない赤い実は、美しいまま朽ちていく。

25歳の時にふと「辻斬りのように男遊びをしたいな」と思って、1ヶ月の間に7人の男と寝た母から生まれた、世にも美しい少女・七竈。「母のいんらんのせいで遺憾ながら美しく生まれてしまった」七竈は、いつも新しい恋を追う旅人であり続ける、淫乱な母を恨みながらも思慕し、幼馴染のやはり美しい少年・雪風と、鉄道模型と、老犬だけに心を許し、閉ざされた旭川の町でかたくなに17歳の時を生きていく。

静謐な世界を築いている七竈の周りで、世界は動きます。母と、母の世代の男女たちが繰り広げた愛憎劇の名残りは消えていません。美しい「異形のかんばせ」を鎮めるためにと、七竈に芸能界入りを薦める、かつての美少女アイドルで、現スカウトの乃木坂れなも、七竈と雪風を慕う後輩・みすずもまた、七竈を追い回します。

嫌いな世界じゃない。ただ七竈の美貌の秘密を、遺伝子的に説明して欲しくはなかったな。異形の美しさの秘密は、明かされた途端、急に色褪せてしまったのです。ただ単に「母のいんらんのせい」で良かったのに・・。

マジック・リアリズムの妙味である、不思議さと現実の微妙なバランスは、この作品では、ちょっと惜しかった気もするけど、次作赤朽葉家の伝説で完成の域に近づくことになります。桜庭さんもまた、見過ごせない作家の1人ですね。

2007/5