りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ナターシャ(デイヴィッド・ベズモーズギス)

イメージ 1

作者は、8歳の時に旧ソ連・ラトヴィアからカナダに移住したユダヤ人。自伝的要素の強いこの連作短編集には、新生活を立ち上げていく一家が移民として味わった「何ともいえないやるせなさ」が満ち溢れています。

カナダで初めてできた友人である、同郷の老婦人の飼っている犬を不注意から事故に合わせてしまう「タプカ」。

苦労してマッサージ免許を取ったものの、全然客がつかず困惑する父が、成功したユダヤ人医師から惨めな思いにさせられる「マッサージ療養士」。

父がソ連時代にトレーナーとして金メダリストに育てた重量挙げ選手がカナダ遠征で一家と再会したものの、彼の実力が下り坂にあることに気づいてしまった「世界で2番目に強い男」。

そして、表題作の「ナターシャ」です。彼女は、ロシアから迎えた大叔父の再婚相手の連れ子(義理の従妹)。16歳になった主人公が、性的に奔放なナターシャに翻弄されます。彼女との悲劇的な別れにも、ユダヤ人移民の切なさが詰まっています。

移民の文学は、北米で1つのジャンルを築くに至っているようです。「ジョイ・ラック・クラブ」のエイミ・タン。「停電の夜に」や「その名にちなんで」のジュンパ・ラヒリ。「ミドルセックス」のジェフリー・ユージェニデス。「ホワイト・ティース」のゼイディー・スミス。私が最近読んだだけでも、こんなにたくさん思い出せるくらい。出身国は、中国、インド、ギリシャ、ジャマイカとまちまちですが、移民作家に共通する「引き裂かれた思い」が心を打つのでしょうか。

2006/1