りぼんの読書ノート

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ユリアヌス(南川高志)

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「歴史と教科書の山川出版社」が、副読本として位置付けているのが「世界史リブレット」シリーズでしょうか。要するに伝記的解説書です。

本書を読んであらためて、辻邦生さんの背教者ユリアヌスが史実に基づいていることを確認できました。もっとも、第一級資料である底本は、ユリアヌスと同時代の歴史家アンミアヌスの史書とのことなので、内容が一致するのは当然なのでしょう。もともと架空の存在であった恋人ディアこそ登場しないものの、皇后エウセビア、友人で重臣のサルティウス、敵役の宦官エウビウス、陰気な異母兄ガルスなど、懐かしい名前のオンパレード。

著者は、ユリアヌスの抱えていた矛盾は、4世紀のローマ帝国が抱えていた矛盾そのものであったと解説しています。地理的には東西に、宗教的にはキリスト教多神教に、民族的には数多くの分裂要素を抱えていた帝国を、再統合するのは不可能だったのでしょう。少なくとも、ユリアヌスの目指した「法治と自由な精神」のもとでは・・。そんなユリアヌスが、唯一ローマ皇帝らしく振舞ったペルシア遠征で戦死したということが、象徴的に思えてきます。

ところでアメリカの歴史学者グレン・バワーソックは、ユリアヌスの好戦性に触れ、皇帝宣言も彼の積極的な意志のもとになされたと論じた説が、現在の多数派であるとのこと。「皇帝に祭り上げられた文学青年」のイメージは崩れますが、そこは本質的なところではないのでしょう。

2016/4