中学時代から『第三帝国の興亡(ウィリアム・L・シャイラー)』や『背教者ユリアヌス(辻邦生)』を愛読していたという著者にとって、「ナチスとカトリック」というテーマは避けては通れなかったものなのでしょう。1930年代のナチス勃興期から戦後のニュルンベルグ裁判までの時代を背景として、対照的な人生を歩んだ2人の幼馴染の人生が交差していきます。
党規に従って神を捨て、ナチスに反発するカトリック教会の弾圧を命じられて、効率的に教会の罪を捏造していくアルベルト。彼の行動は、狂気の暴走を始めたナチスとの軌跡と一致していきます。開戦とともにSS将校となってユダヤ人虐殺部隊の任務に赴き、さらに激戦地を転戦。しかし時として見せる矛盾した行為は、合理的な精神によるものなのか。良心のなせる業だったのか。それとも・・。
一方で、アルベルトによる摘発を受けて修道会を失ったマティアスは、苦悩の中でも信仰を捨てることはありませんでした。、反ナチスのレジスタンス活動に携わったものの衛生兵として前線に召集され、自らの無力を噛みしめることになります。やがてイタリアの戦場で再会した2人は、ともにローマを目指すことになるのですが・・。
本書を貫いて「信仰のあり方」が問われ続けられるのですが、問題は神の側にあるのではなく、むしろ「人間の尊厳」にあるのでしょう。「神の代理人」であるローマ法王の無力さを含めて、困難な時代という「状況」の中で、それぞれの人間が何を価値基準として生きるのかが問われているのです。サルトルの『自由への道』など「戦後欧州の実存主義文学」と同種の匂いを感じました。
著者の真骨頂は、少女小説のセオリーを詰め込みながら少女小説の枠を超えた『流血女神伝』と本書の中間にある『芙蓉千里シリーズ』のような作品にあるように思います。「歴史と冒険と浪漫のアンバランスな共存」の危うさが魅力です。
2014/1