東西統一後のドイツで、旧東ドイツ地域はベルリンを除いてすっかり「負け組」に入ってしまった印象があります。本書は、1977年に旧東ドイツのハレで生まれた若い作家が、「負け組」としての人生をおくる旧東ドイツ出身者のさまざまな姿を描き出した短編集。
「小さな死」:失業手当も止められ彼女にも去られた男が、孤独死を夢想します。
「南米を待つ」:遺産を手に南米に行った友人からの手紙は希望でしたが、真相は・・。
「銃と街頭とメアリー・モンロー」:ヤク中毒の青年は彼女を守るつもりだったのでしょうか。
「デブは恋してる」:小学生に恋心を抱いてしまったデブの教師に破滅が訪れます。
「犬と馬のこと」:老犬の手術代を得るために競馬に賭ける失業者。馬券は当ったのですが・・。
「夜と灯りと」:成功者となった振りをして故郷に戻り、昔の彼女に会うのは悲しいものです。
「おれたちは旅する」:刑務所で出合った男と組んで、ホモ買春の美人局をする男に破局が・・。
「ヨハネス・フェッターマンの短くも幸福な生涯」:ドラッグに溺れる天才画家の幻想。
「川への旅」:元ボクサーの囚人に頼まれて会った、彼の娘の生活の真相は言えません。
「通路にて」:夜勤のフォークリフト運転士は不幸な結婚をしている女性に恋をします。
「君の髪はきれいだ」:言葉の通じない外国人娼婦に入れ込んだ会社員は職を捨てますが・・。
「老人が動物たちを葬る」:老人は、病んで年老いた愛犬を銃殺しなくてはなりません。
12編の短編に登場するのは、失業者の青年であり、貧しい老人であり、犯罪者であり、ドラッグに救いを求める人々で、「敗残者」のイメージが強く漂う者ばかりです。これらは個人レベルの物語というより、「時代の雰囲気」を切り取ったものなのでしょう。そう言い切ってしまうのも、あまりに悲しいのですが・・。
2010/6