りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

いつかわたしに会いにきて(エリカ・クラウス)

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セクシーでスキャンダラスな往年のハリウッド女優、メイ・ウェストの言葉をタイトルにした本書は、人生や恋愛に戸惑っている30代の女性を描いた13の短編からなっています。「」内に記した彼女の警句を扉に配して、それに応える文章で締めくくられる作品群は、まるで「メイ・ウェストの言葉で包装されたエリカ・クラウスの世界」です。

結婚式:「わたしが結婚しないのは、そういうふうに生まれ付いたからよ」
彼女は結婚を望んでいるのか、いないのか。それは彼の意向を気にしすぎているだけなのか。友人の結婚式で落ちてくる花束をつかもうと、「安堵と恐怖が絡み合い」ます。

ノー・ユニヴァース:「手玉に取ることだってできるわよ」
不妊に悩む女性は、中絶を経験したものの後に結婚して出産した友人に「それはいたみというのよ」と言い放つのです。

ドラッグとあなた:「ためらう男は論外ね」
自分が付き合っている男がドラッグ常習者と知った女は、男を撃つつもりだったのでしょうか。

情け:「わたしはずっと元気だし、仕事もちゃんとやってるわ」
身ひとつでニューヨークに出てきた女性が、職探しをしながら、下宿先の中華料理店の親子と交流するのですが、彼女はDV男とつきあっていたのです。男と別れる際に自分に言い聞かせた言葉は「わたしにも、できるのだ」

浮かぶには大きすぎるもの:「ふつうは誘惑にはのらないのよ。抵抗できない場合はべつだけど」
飛行機を恐れる女は、パイロットを愛したものの、彼の操縦する飛行機にも乗れません。爆発して欲しいという無茶な願いにも反して、飛行機は空へと向かいます。「心という標的をはずした弾のように」。

よそのお母さん:「母からはたったひとつのことしか教えてもらってないわ」
友人やボーイフレンドの母たちとは気さくにつきあえるのに、自分の母とは長年顔も合わせていない女性には、継父を介した秘密がありました。母から最後にかけられた言葉は「わたしがあんたの母親じゃないなら、あんたは何者なのよ?」

初めての地震:「 何をしたかじゃないの。どうしてそれをしたかよ」
平均台の演技中に地震が起きて、ガラスの破片が砕け散った上に着地した少女の「「小さな足はとつぜん、床にぴたりと着地したまま釘付けされた」のです。

女装する者:「むかし、わたしは白雪姫だったけど、いつのまにかそうじゃなくなってたわ」
派遣先で同僚になった女性への想いを募らせた女は、傲慢なボーイフレンドを捨てて彼女のもとへと向かいます。「いままでわかっていたことなど、なにもないような感じだった」という気持ちを抱いて。

はずみ:「大切なのは人生で出会った男の数じゃないの、出会った男たちの人生よ」
クソ夫との5年間の生活を耐えた後、女はせっかくまとめた荷物を全て放り出すのです。「女がほかのすべてをあきらめたあと、やっと自由だけを手放す」男たちとは、対照的に。

他人の夫:「次の男がどこから現れるのかわからなかったときがあるわ」
いつも他人の夫ばかりに惹かれる女は、妹の夫も寝取っていました。しかし、夫と姉の不倫を知っていた妹は、姉に言い放ちます。「あなたは、走って、走って、走ってばかり」と。ランナーが目指す白線はエンドラインと呼ばれているのです。

断食:「ブドウの皮も剥いてちょうだい」
突如断食をはじめた女の食欲が戻って来たのは、横柄な昔の恋人が女から捨てられる無様な姿を見かたらなのですね。

テキサス経由で:「わたしはここぞと思ったら、あなたと別れるつもりよ」
たった今「愛というのは条件付きなんだよ」などと言った男と別れてきた女ですが、テキサスから出るには広いテキサスを走り抜けるしかないのです。

身につけていたもの:「善良さはダイアとなんの関係もないのよ、お嬢さん」
派遣で派から来ながら役者を目指している女は、小劇場で失敗に終わった公演の間、ドラッグを試してもみたのですが・・。彼女は今でも、手のひらにセリフを書いて演劇会に臨んだ小学生の頃から成長していないのでしょう。

2018/5