りぼんの読書ノート

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陋巷に在り 3 媚の巻(酒見賢一)

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第3巻では、孔子に対抗して塾をかまえる謎の人物・少正卯の屋敷に同居して、性魔術ともいうべき媚術の使い手である子蓉の恐ろしさが存分に語られます。まず子蓉の虜になってしまったのは、少正卯の塾を偵察に訪れた若い子貢でした。猥雑な意味を有する「投壺」に捉えられ、意識は泥人形の中に、身体は阿片に蝕まれていた子貢を、顔回は取り戻しに行くのですが・・。 

 

一方の孔子は、魯国に周礼を復活させるため、君主に代わって政治の実権を握っている三桓家の力を削ぐことに尽力しています。彼が打ち出した政策は、三桓家が私物化している三都城の毀壊でした。しかし陽虎の反乱以来、公山不狃なる人物に不法占拠されている李孫氏の費城はともかくとして、孟孫氏の成城や、叔孫氏の郈城を破壊する大義名分は難しい。術をもって叔孫氏に取り入っている少正卯が、孔子への協力を持ち掛けるのですが、もちろん真の狙いは別のところにあるのです。 

 

そんな中で、顔回に惹かれた子蓉の暴走が始まります。犠牲になったのは、顔一族の太長老の守り役を務めてきた顔穆でした。70歳を超えた傴僂でありながらなお驚異的な身体能力を誇る顔穆も、子蓉の媚術の前には無力でした。彼は若き日に唯一思いを寄せた女性であった、孔子の生母・徴在の面影を思い起こしながら死んでいきます。 

 

子蓉の目的は、先に顔回を対決した際に彼を守った毛髪の送り手である女性を探し出すことでした。これは顔回を慕う無垢な少女「妤」の毛髪でした。子蓉の魔手は少女に届いてしまうのでしょうか。 

 

2020/8再読