りぼんの読書ノート

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陋巷に在り 6 劇の巻(酒見賢一)

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曲阜の巷で暴動を起こしたのは、子蓉の媚術に操られてしまった無垢な美少女・妤でした。彼女の暴走を止めることができるのは顔回しかいません。しかしこの事件は、もともと顔回と子蓉の争いに端を発したものであり、妤は巻き込まれただけなのです。しかも彼が妤の異変に気付くのが遅れたことが、重大な事態を招いてしまったわけであり、知らなかったではすみません。このあたり、顔回は少々抜けています。衰弱しきった妤を救うために、顔儒の故郷である尼丘へと向かうのですが・・。 

 

その一方で、魯の司寇となった孔子の政策である費城毀損は、思わぬ様相を見せ始めます。少正卯一派の悪悦の仕掛けで城主の公山不狃は正気を失い、兵たちも何かに憑かれたようになってしまうのです。本来であれば籠城すべき寡兵をもって城外に打って出た公山不狃と費兵を、大軍を率いる子路は止めることをできません。もともと武将としての訓練を受けていない子路を指揮官とした時点で、孔子の判断は誤っていたのです。 

 

包囲を打ち破って大軍を振り切り曲阜まで長躯した公山不狃は、守兵の手薄な王城を破って、魯の中枢を目指します。定公も三桓家の当主たちも危地に陥りますが、そこに孔子が立ちふさがります。孔子は巨体であるのみならず武術も極めていたようですが、彼を守ったものはやはり天命なのでしょう。孔子の弓によって鬼を落とされた公山不狃は、もはや脅威とはなりえません。物語は、ひとつ山場を越えたようです。 

 

2020/8再読