りぼんの読書ノート

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陋巷に在り 12 聖の巻(酒見賢一)

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尼丘はついに滅びます。しかし滅びをもたらしたものは、天命としか言いようがないものでした。顔氏の太長老は死の直前に神の力の本質を知り、悪逆の限りを尽くした悪悦は実妹の子蓉に倒され、尼山の神から嘉された子蓉は、かろうじて最期の瞬間に間に合った顔回に抱かれたまま、永遠なるものの中に還っていきます。やはり顔回の運命の女性は子蓉だったのですね。 

 

残された顔回は天命の非道さに対する怒りのまま、神がかった力で尼山の祠を破壊しつくすのですが、これも含めて天命なのでしょう。最後に顔回から鬼気を落としたのは、妤でした。あれだけ酷い目にあわされながらも、妤と子蓉は姉妹のように通じ合っていたのでしょう。この後の顔回と妤の関係は大いに気になるところです。 

 

成城破壊の軍仲にいた孔子は、故郷であった尼丘の滅びの知らせを聞いて気力を失います。その意味では、尼丘を攻撃を仕掛けたことは、孔子の弱点を衝いたと言えるのでしょう。最後の一日の猛攻をしのいだ成城はついに持ちこたえてしまいます。孟孫氏の同士討ちという事態を招いた成宰の公斂處父は自裁することになりますが、孔子が魯の政権安定のために計画した三都毀壊政策は、最終段階で挫折してしまったわけです。この後の物語は、大いなるエピローグのようなものになっていきます。 

 

2020/8再読