りぼんの読書ノート

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一号線を北上せよ ヴェトナム街道編(沢木耕太郎)

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深夜特急の著者による、ホーチミンからハノイまでのヴェトナム1号線のバス旅行記です。とはいっても、著者はこのとき50歳を超えていますので、かつてのような無茶な旅行体験記ではありません。むしろ紀行文のようなエッセイ集ですが、旅への思いは健在です。

自分でバスのチケットを買い、到着地でホテルに飛び込むスタイルですが、既にかつてのような冒険感はありません。私自身、以前は空港でレンタカーだけ借りて旅行をしていたものですが、ネットで情報を入手して事前予約をするほうが便利に思えてきたのは2000年代半ばころからでしょうか。本書が書かれた2000年代はじめというのは、旅のスタイルが変わりつつあった端境期のように思えます。

しかし「旅への思い」を満たす要素は、事前の情報や予約ではありませんね。目的地の正確な情報も、目的地に至る手段も不明なまま、突き上げてくる思いにまかせて旅立ちたいという思いは、年齢や経験にかかわらず在り続けるものなのでしょう。「誰にも北上すべき1号線はある」のです。

それでも、著者がバスで乗り合わせた欧米の年配のバックパッカーたちへの感想は、的を得ているように思えます。「眉間にしわを寄せるようにして、時には旅行者同士で、時には現地の人を醜く争いながら、まるで経済的な旅をするだけが目的のような苦しい旅」を肯定的に思えなくなったというのです。そして「外国を緊張感もなくゆったり旅しているツアー客」のほうが好ましいというのです。

それぞれのライフスタイルに優劣はありませんが、私自身、「旅」から「旅行」へ、さらに「滞在型」のほうが好ましく思えてきたことも事実です。それでも「北上すべき1号線」をたどっている感覚は失われていないと思っているのですが、いかがでしょう。

2019/2