りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

東京へ飛ばない夜(ラーナ・ダスグプタ)

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悪天候のために東京行きのフライトが緊急着陸した夜の空港で、13人の男女が不思議な物語を語り合う「現代のデカメロン」なのですが、少々締りが悪い感じです。この種の話には全体を包み込む「大枠の物語」が必要なのです。ソロと同様に、誰かの白昼夢なのかもしれませんが、むしろ『ソロ』を生み出すための習作のように思えます。

「仕立屋(どこかの国)」
高価な服を注文しておいて、責任を果たさない王子のために没落した仕立屋は、物語の語り手として余生を過ごすことになるのです。

「過去をつむぐ男(ロンドン)」
人々が過去を忘れるようになってしまった世界。諜報機関が蓄えた人々の記憶を商品にして、荒稼ぎする男の前に現れたのは、息子の存在を忘れてしまった父親でした。

「富豪の眠れない夜(デリー)」
人工授精で生まれたのは、美しい女の子と醜い男の子の双子。男の子は捨てられ、女の子は植物を成長させる能力のために塔に隔離されてしまいます。やがて出会った2人は、互いに惹かれあうのですが・・。

「地図屋の娘(フランクフルト)」
あらゆるものをデータベース化した地図を作製する男の前に現れたのは、トルコの地図にない荒野で出会ったことがある、蝶の化身のような美女でした。しかし彼女は、バーチャルリアリティの世界では生きるには純真すぎたのです。

「店(ニューヨーク)」
デ・ニーロの私生児である男と、スコセッシの私生児である女が出会います。2人は変身を可能にする「魔法のオレオ」を引き当てたのですが・・。店に変身するという発想はぶっとんでいますが、珍しくハッピーエンドの物語でした。

「高架下の少年(ナイジェリア)」
権力者の手先になった少年が、女優を夢見る少女を助ける物語。

「ちょっとしたこと(デトロイト)」
完成前のスピード防止帯に衝突死した息子を持つ父親は、黒い防止帯を丁寧に白く塗るのです。

「東京ドール」
大富豪の娘と結婚した男が密かに作った精巧なマネキンが、電子化されて我儘な心を持ってしまいます。マネキンに翻弄された男の行く手には、もちろん破滅が待ち構えているのです。

イスタンブールの逢瀬」
イスタンブールに寄港した船乗りを愛した女が、詐欺にあって異国の港から戻れなくなった男を迎えに行きます。彼女を導いたのは、船乗りが吐き出した飛べない鳥でした。

チェンジリング(パリ)」
不死性を持つチェンジリング(取り替えっ子)が、かりそめの人間の姿を脱しようとする寸前に不思議な老人を助けます。チェンジリングは、身体中から植物が生えてくる奇病で死を迎えようとしている老人に、捉われてしまったのでしょうか。

「地下室の取引(ポーランド)」
人を癒す力を持つ捨て子の娘の天職は、SMの女王になることだったのでしょうか。やがて彼女にも癒し切れない2人の男が登場した時、彼女の生活は暗転していくのです。

「幸運な耳掃除屋(中国湖南省)」
耳掃除が得意な男が、深圳に出稼ぎに行って成功を納めます。しかし彼には不思議な「かたち」が見えてくるのです。ネタバレをすると、それは故郷に置いてきた娘の耳の形だったのです。

「こんな夢を見た(ブエノスアイレス)」
映画を愛する男が発見したのは、冷蔵庫の中で眠っていた女性。しかし奇病に犯された女性は、再び冷蔵庫の中に戻ってしまいます。男はやがて、13人の夢から紡ぎだした映画で成功を収める・・という訳のわからない展開は、13の物語からなる本書のテーマと関係しているのでしょうか。

2018/5