フィンランドの新鋭作家による「ある家族の100年の物語」は、北東部の寒村を舞台にして3世代に渡る4人の視点人物によって語られていきます。4人の人生が交差する一瞬に、大きな家の中に隠されていた秘密が浮かび上がります。
1人目は、19世紀末に助産師の資格を取って、女手一つで娘ラハヤを育て上げたマリア。200kmも離れた隣町まで自転車を引き取りにいく場面は、彼女の強さと独立の気概を象徴的に表しています。しかしマリアは、両親が揃った家庭を築くことはできませんでした。
2人めは、写真技師となって生計を立てたラハヤ。母と同様に私生児の娘を得たものの、後に心優しい夫・オンニと結ばれ、彼との間にも1男1女を得ることになります。しかし3人の子供たちを分け隔てなく愛した夫は、対ソ連戦争から復員した後に自殺。ラハヤは気難しい女性となって長い余生を生きることになります。
3人めはラハヤの息子の妻となったカーリナ。彼女が心の平安を得たのは、嫁どころか孫にまで悪意を向けたラハヤが、1996年に病死した後のことでした。ラハヤが死の直前まで罪の意識に苛まれ続けたのには、いったいどのような理由があったのでしょう。
時代は遡って、4人めのオンニの物語で彼の秘密は明らかにされます。その前からの伏線で想像はついていたものの、フィンランドでは1971年までLGBTは非合法で、犯罪扱いされていたとは知りませんでした。現在ではLGBTに理解ある国なのですが、対ソ連戦争時にナチスと組んでいたことも影響していたのかもしれません。
そして終章、ラハヤの死後に彼女の秘密が明らかになったところで物語は終わります。偶然発見してしまった姑の秘密を、カーリナは夫や子供たちにも告げることはないのでしょう。秘密の一部を担ってしまったことで、カーリナの家族愛が歪まなければよいのですが・・。
2017/7