りぼんの読書ノート

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砂上(桜木紫乃)

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直木賞作家による「作家誕生」の物語。札幌郊外の江別に住む40代の女性・柊令央は、別れた夫から振り込まれる僅かな慰謝料と、ビストロでのアルバイトである数万円の収入とで生活しています。、いつか作家になりたいと思い、雑誌の新人賞に応募を続けているものの、そんな夢はとうてい叶いそうにありません。

そんな令央のもとに、冷徹な女性編集者の小川乙三が現れます。令央には「主体性もなく感情も薄い」と言い放ち、「あなたは今後何をしたいのか」と問い詰める乙三との出会いによって、はじめて令央は小説に真正面から向き合い、自分が繰り返し書いてきた「母と娘」というテーマを直視することになるのです。「砂上」と名付けられた作品は、出版のあてもないまま、数えきれないほどの書き直しを命じられます。

そんな中で令央は、亡き母の知らなかった一面を掘り返していきます母がどのような思いで私生児の娘を生んだのか。娘の誕生によって母の生活はどのように変わったのか。たがて娘もまた私生児を生んだ時、母は何を思ったのか。そしてそれらの「現実」はどのように「虚構化」されていくべきなのか。

やがて小説が完成した後に向き合った2人の無言の会話がいいですね。「ちょっとやそっとで死にたいなんて思わない書き手に会いたかった」と言った乙三に対し、「嘘をつき通すための真実なら、まだもう少しこの手にある」という令央は、まぎれもなく「作家」になっています。「できるだけ粒の細かい砂をより分けていく」という創作活動の厳しさの一面を知った思いです。2人ともに著者の分身なのかもしれません。

2019/1