りぼんの読書ノート

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U(ウー)皆川博子

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タイトルの「U(ウー)」とは、2つの「下」のこと。第一次世界大戦時のドイツUボート乗組員の物語は「水面下」で進行し、17世紀初頭のオスマン帝国の物語は「地下」へとたどりついていきます。

1915年。英国海軍に捕獲されたUボート(U13)を機密保持のために自沈させるという作戦に志願した兵士ハンス・シャイデマンを回収するために、彼をよく知る王立図書館員のヨハン・フリードホフがU19に乗り込みます。英国海軍に封鎖されたドーバー海峡アイルランド海峡を通行する回収作戦もまた決死の任務であり、ヨハンは海軍大臣に一束の手稿を手渡しました。ヨハンとハンスが書き綴ったという、オスマン帝国の奴隷の物語が、作中作として紹介されていくのです。

そこではヨハンとハンスは、白人奴隷としてイエニチェリ軍団に強制徴募された2人の若者として描かれます。オスマンに征服されたマジャール人貴族の息子ヤノーシュ(ヨハン)と、ザクセン商人の息子シュテファン(ハンス)は、それぞれに歴史の流れに巻き込まれていくのでした。

皇帝アフメト一世と息子のオスマン2世に才能と美貌を見出されたヤーノシュ(ヨハン)は去勢され、宮廷内で働く高級奴隷へと育て上げられる中で、絢爛豪華で退廃的なオスマン=トルコが抱える矛盾に直面して行きます。一方で戦士としての鍛錬を続けるシュテファン(ハンス)は、かつて無敵であったイエニチェリ軍団の崩壊の予兆を感じ取ります。やがて2人はオスマン2世のモルドバ遠征に同行し、大敗の混乱の中で地下の岩塩鉱に逃げ込むのですが・・。

作中作であったはずの物語は、ここで驚天動地の展開を見せてくれます。ヤーノシュ(ヨハン)とシュテファン(ハンス)は、300年以上も生き続けているというのですから。激動の近世史を生きた2人がたどり着いた場所が、なぜ20世紀のUボートなのか。2人の精神と肉体はどのようにして開放されるのか。著者が創り上げた虚構という地下世界を存分に楽しめる作品です。

2019/1