りぼんの読書ノート

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伊勢物語(川上弘美訳)日本文学全集3

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池澤夏樹氏の個人編集による「日本文学全集」第3巻の2作めは、在原業平らしき男の一代記と言われる『伊勢物語』です。男女の恋愛を中心に据えながら、親子、主従、友人、社交など多岐にわたる「断章」から「人生」を紡ぎあげるという物語の新訳に、川上弘美さんをあてるとは、さすがの人選です。

きちんと体系だった業平の物語というわけではないのですが、川上さんは「全体を読むと、これは確かに一人の「男」の人生なのだと感じられる」と述べています。

有名な物語ですからさすがに断片は聞き知っていますが、全体に目を通したのは初めてです。特に有名な段についてメモを記しておきますが、前半の恋物語だけでなく、後年になって「男」が年老いてからの物語にも風情を感じました。

・冒頭を飾るナンパの原点「第1段:初冠」
・身分の高い女性との禁断の恋「第3段:ひじき藻~第5段:関守」
・駆け落ち相手が鬼に食われてしまう「第6段:芥川」
・旅先から京の想い人を偲ぶ「第9段:東下り
・幼馴染どうしが結ばれる「第23段:筒井筒」
・都に行った男の帰りを待てなかった女の悲しみ「第24段:梓弓」
・桜の愛で方を競う「第83段:渚の院」
・辞世の句「第125段:つひにゆく道」

「和歌」の部分は訳者の腕の見せ所なのですが、川上さんは、思い切った意訳をしています。「逢ふことは玉の緒ばかり思ほえてつらき心の長く見ゆらむ」を、「逢うのは一瞬、恨みは永遠」は怖い。

また、ラストの「ついにゆく道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを」をひととおり訳した後で、「生きるとは なんと 驚きにみちたことだったか」と追記して全体を締めくくる世界観には、凄味すら感じました。

2016/6