りぼんの読書ノート

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竹取物語(森見登美彦訳)日本文学全集3

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池澤夏樹氏の個人編集による「日本文学全集」第3巻の冒頭を飾ったのは、日本最古の物語でした。森見登美彦氏は新訳に際して、「美女と竹林、阿呆な男たちの恋と迷走、この世ならざる世界への怖れと憧れ。これまで自分が書いてきたもの、これから書くであろうすべてのものは、この物語の末裔なのだと腑に落ちた」と述べていますが、まさに適役です。

ストーリーに触れる必要もないでしょうが、ジブリ映画「かぐや姫の物語」のキャッチコピーである「姫の犯した罪と罰」という表現が、すでに本書の中にあることは記しておきましょう。それと、「地球代表としての帝を引きずり出した途端に、それまでの陽気さが影を潜める」という森美さんの指摘も。そこが転調のポイントだったのですね。

ところで、本巻に含まれる「竹取物語」、「伊勢物語」、「堤中納言物語」、「土佐日記」、「更科日記」の5つの物語には、どれも「和歌物語」であるという共通点があります。新訳に挑まれた方々の腕の見せ所ですね。森美さんは「恋する男女が交わす、ちょっと恥ずかしいポエム的なものをイメージした」と述べていますが、これがピッタリなのです。一例をあげておきましょう。

「かぎりなき思ひに焼けぬ皮衣袂かわきて今日こそは着め」
僕の身を焦がす
アツアツの恋心にも
この火鼠の皮衣は
焼けたりなんかしないのさ
君と結ばれる今日は
袂を涙で濡らすこともないしね

2016/6