りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

パンドラの匣(太宰治)

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戦後に新聞小説として執筆されましたが、もとになっているのは、太宰の読者であった木村庄助氏が戦中に綴った病床日記です。

主人公は、20歳の青年ヒバリ。「健康道場」という風変りな結核療養所で闘病生活を送りながらも、周囲の人々と交流していく様子が、なぜか明るいのです。閉鎖された空間ですから狭い社会なのは仕方ありませんが、友人に宛てた書簡は、ほとんど看護婦さんとの恋愛談義。自分を「新しい男」と称して大人ぶっているものの、初々しい子供っぽさすら感じさせます。

手紙ではオバサンっぽく描かれるものの、実は絶世の美女だった竹さんと、不良少女のように描かれながら、実は純情少女だったマー坊との、精神的な三角関係を通して、ヒバリは成長していくのですが・・。

サナトリウム小説」の代表ともいうべきトーマス・マン魔の山は、カストルプ青年が現実世界に立ち戻っていくところで終わりますが、本書のラストが少々説教臭くなってしまったのは残念でした。

2016/2