りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

エピローグ(円城塔)

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「ハードSF」の行きつくところは「ソフトSF」なのでしょうか。この時代、現実宇宙はOTC(オーバー・チューリング・クリーチャ)に征服されており、人類は「n次シミュレーション宇宙」に退転を繰り返すばかり。要するに人類はソフトウェアでしかないのです。この「退転」を可能にしたのが「イザナミ・システム」。

そこは、宇宙法則は通用せず、因果関係は無意味になり果てた世界。それでも人類は、訳のわからないOTCに対して、訳のわからない方法で戦っているようなのですが、そこで何が起きているのか、登場人物も読者も理解できないまま。それでも特化大体の朝戸連隊員と相棒の支援ロボット・アラクネは、「OTCへの対抗物質=OTCの構成物質」であるスマート・マテリアルを採掘するため、今日も出撃しているのです。

一方で、女性が殺害され続ける、あるいは女性が殺害されずに非殺人状態にあるという、これまた訳のわからない事件を担当しているのがクラビト刑事。その背景には、実存そのものを商品とする多宇宙間企業イグジステンス社があるようなのですが、これらの物語はいったいどこに行きつくのでしょう。

本書の表紙がいいですね。「本書で言いたいことは、全て表紙のイラストに凝縮されている」というのが、私の解釈です。これだけ乱れた宇宙でも「ストーリーライン」を紡ぎ続けることは可能であるようで、本書は結局のところ「ラブストーリー」に至るのですから。これこそが、メタフィクションをn次元まで掘り下げて行っても、最後まで残るものなのでしょう。

2015/12