りぼんの読書ノート

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六条御息所源氏がたり2.華の章(林真理子)

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20代後半の光源氏が失脚した原因は、艶やかで奔放なイケイケ・ガールの朧月夜との不倫でした。彼女は、アンチ光源氏の筆頭である右大臣が入内させようとしていた愛娘だったのです。でも自ら謹慎した先の須磨・明石で地元の女性と関係を持ってしまうのですから、ビョーキは治まっていません。明石の君の登場です。

しかし、明石の君は存在薄いですよね。光源氏の唯一の娘を生み、その娘が天皇の正妻となって子孫を反映させることになるのですが、本人は世間の尊敬を他所にしてずっと控えめな存在に終始するのですから。その娘だって正妻格の紫の上の養女となり、母親の明石の君とは一線を引いた関係になってしまうのです。

もちろん、留守宅をしっかり守っていたのに、案じていた夫は浮気をしていたと知らされただけでなく、愛人の娘を養女にさせられた紫の上だって、夫への失望を深めました。もともと、いたいけない少女の頃から強引に引き取られ、暴力的に妻にされたことへの恨みだってあったはずだというのです。

女たちの思いを他所に、配流から呼び戻された光源氏は、権力欲をあらわにして人臣を極めていきます。藤壺六条御息所の死を嘆いたのもつかの間、六条御息所の娘にまで手を出そうとするのですが、彼女は亡き母の愛によって守られました。秋好中宮として冷泉帝(光源氏と藤壷の息子)の后となります。

そんな光源氏のオヤジ化の象徴が六条院です。広大な敷地に建てた御殿に、今まで関係を持った女性たちや子どもたちを住まわせるというのですから、これはもう後宮ですね。春の館には紫の上と養女にした明石の姫君。夏の館には葵の上が命と引き換えに産み落とした夕霧と教育係の花散里。秋の館は秋好中宮の里邸。冬の館には明石の君。ついでに元の二条東院には空蝉や花散里など、縁遠くなった女性たちを住まわせます。一度関係した女性に義理堅いのは、光源氏のいい所なのです。

権勢を極める一方で、さすがの光源氏といえども若い女性たちからは拒まれてしまうようになります。秋好中宮だけでなく、朝顔の君や、亡き夕顔と頭の中将の娘の玉鬘には、ついに手を出すことができませんでした。林さんの「光源氏オヤジ化論」は、完全に納得できますね。

2013/12