りぼんの読書ノート

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日本文学全集4 源氏物語 上 概説(池澤夏樹編/角田光代訳)

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源氏物語』を通して読むのは、高校生の時に岩波の「日本古典文学大系(通称)赤大系」全5巻を読んで以来です。その時はいわば古文勉強であって、脳内で口語訳するのに必死のあまり、全体の物語構成や表現の素晴らしさを味わう余裕などありませんでした。その後、注釈本や抄訳本、さらには『源氏』に題材を得た小説作品などを読む機会があり、『源氏物語』の偉大さを理解してきたつもりでしたが、今般角田さんの新訳が出たことで、あらためて通読してみようと思った次第です。

 

角田さんは現代語訳に際して、まず読みやすさを優先したとのことです。「物語世界を駆け抜けるみたいに」一気読みできるのはありがたいですね。原文は「人称代名詞が極端に少なく、巧妙な敬語の使い分けで誰のことかを」理解しなくてはならないのですが、そこを丁寧に記述してくれたことで一気読みが可能になっています。とりあえず「上巻」は2日で読めました。次いで考えたのは「作者の声」とのとで、そこだけ「ですます調」で記述されています。千年前に紫式部が感じたことがコメントされているわけです。シリーズ編者の池澤夏樹さんによる「現代語に訳すとは、モダニズムに仕立て直すとは、こういうことである」との解説には、全く同感です。

 

本書は上中下の3巻構成であり、上巻では1帖「桐壷」から21帖「少女(おとめ)」までが収められています。光源氏の誕生から35歳の中年期に至るまでの物語であり、中盤の主人公となる玉鬘と後半の転機をもたらす女三の宮を除いて、ほとんどの登場人物がここまでに出揃っています。藤壺、葵の上、六条御息所、若紫、朧月夜、明石らの主役級の女性たちと出会いながら、挫折も経験しつつ栄達を極めていく過程の物語は、33帖「藤裏葉」で頂点に達するのですが、22帖からは傍系の「玉鬘十帖」ですので、【第1部:青壮年期】の大半が収められていることになります。ちなみに【第2部:晩年期】は34帖「若菜」から41帖「雲隠」まで。「宇治十帖」を含む光源氏亡きあとの物語が【第3部】となるわけです。

 

あらためて読んでみると、終始「王朝物語トーン」で描かれる1帖「桐壷」はこれだけで成立している作品ですね。紫式部はこの時点ではまだ、この物語を超大作へと仕上げていくつもりはなかったのかもしれません。しかし著者のコメントが登場し始める2帖「帚木」、3帖「空蝉」、4帖「夕顔」のいわゆる「帚木三帖」を書き綴っていく過程で、大構想が生まれてきたように思えます。研究者の方々がどう考えているのか、知りたいところです。各帖の物語にも触れていきたいのですが、概説だけで十分に長くなってしまいました。記事をあらためてメモしておくことにします。

 

2021/7