りぼんの読書ノート

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嵐を走る者(T・ジェファーソン・パーカー)

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カリフォルニアを舞台にして人間の愛憎や悲哀を描き出す良質ミステリを生み出し続けている作家の邦訳最新書です。本書でも、最愛の妻子を失い凍えていた男性の心が、新たな出会いによって再び溶け出していく過程が、鮮やかに描かれています。

元保安官補のストロームソーは、自分を狙った爆弾のせいで妻と息子を失い、重傷を負います。犯人は高校時代の親友で、現在はスパニッシュ・マフィアのボスになっているタバレスですが、既に逮捕され、今は収監の身。自暴自棄に陥り2年に渡って破滅的な生活を送ったストロームソーですが、警備会社を営む旧友ダンの援助で再出発をはかります。ストーカーに悩まされているサンディエゴのTVの女性天気キャスター・フランキーの身辺警備という初仕事が、彼を変えていきます。

ひとつは、ストーカー行為が単なる変質者の仕業ではなく、LA水道局の利権も絡んでいる陰謀の一環であり、ついにはタバレスを再びストロームソーのもとに招き寄せてしまうこと。もうひとつは、フランキーに惹かれていき、彼女をかけがえのない女性と思うようになってしまったこと。

ストロームソーの亡くなった妻ハリーが、かつてタバレスの恋人だったことは物語の中の早い時期に示されますが、彼が旧友の命を狙うようになったのは、それだけではありません。2人の間にいったいどんな確執があったのか。フランキーを付け狙う男の狙いとは、いったい何だったのか。そして、ストロームソーとフランキーの関係はどうなるのか。

この作家の特徴は、普通なら終盤のクライマックスに向けて次第にテンションを上げていく場面を、むしろ内面に深く沈みこんでいくかのようにあくまで静かに描くことにあります。本書もその例外ではありません。主人公が悪漢と直接対決するアクション場面にラストの30分を費やすような映画にカタルシスを感じるような読者には、満足は得られないのかもしれませんが・・。

2009/4