りぼんの読書ノート

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第三の男(グレアム・グリーン)

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名作映画「第三の男」の原作ですが、もともと本書は映画製作のために書かれたとのこと。主人公の名前(原作はロロ、映画はホリー)や、有名なラストシーンが異なることなどは著者も前書きで述べており、とりわけヒロインのアンナが絶望しながらも毅然とした態度を示す映画のラストシーンは、キャロル・リード監督のほうが素晴らしいと、率直に述べています。ジョゼフ・コットンが演じたホリーも、原作よりは毅然としていますね。

しかし映画に親しんだ読者をもっとも困惑させるのは、視点人物が警察官のキャロウェイであることでしょう。私も、小説内の一人称がロロではないかと勘違いして混乱した場面すらあったほど。とはいえ、分割占領化のウィーンの雰囲気や、夜のプラーターの大観覧車の不気味さや、ウィーンの地下水道での追跡劇の緊迫感などは、原作の魅力がそのまま映画化されたというべきでしょう。

前置きが長くなりましたが、映画を見たことのない人のためにストーリーも紹介しておきましょう。旧友のハリー・ライムから分割占領時代のウィーンに招待されたロロは、ハリーが交通事故で亡くなったと聞いて困惑します。しかし事故現場にいたはずのない「第三の男」とは、いったい誰なのか。

ロロは、ハリーがペニシリン闇取引の中心人物であったとキャロウェイ少佐から聞かされ、自ら調査を開始。ハリーの恋人であったアンナと知り合い、ついには事故死を偽装して残酷な怪物へと変身を遂げていたハリーとプラーターで再会を果たします。そして地下水道での劇的な幕切れと、印象的なラストシーン。

読書の最中も、アントン・カラスのツィターによるテーマ音楽が、頭の中で鳴り響いていました。映像と音楽が強烈な印象を残すことは、否定できませんね。だからこそ、優れた文学作品を映像化する際には、気を付けて欲しいのです。本書の場合には、明らかに映画の方が上ですが。

2018/3