りぼんの読書ノート

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龍馬史(磯田道史)

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龍馬暗殺の実行犯は京都見回組であるというのが定説になっているようですが、黒幕については幕府説、薩摩藩説、土佐藩説、紀州藩説などがあって、論争の的になっています。最近でも龍馬の手紙という「新資料」をもとにしてTV番組で特集されたほど。武士の家計簿の著者であり、近年ではBSプレミアムの歴史番組「英雄たちの選択」の司会としても有名な磯田道史さんは、どのように推理したのでしょう。

動機がないとして退けられたのは、藩の外交を龍馬に依存していた土佐藩と、対幕府戦を強く主張していた、薩摩藩ですが、これには少々説明が必要です。著者は、幕府の力を弱めた「大政奉還」は幕府討伐に有効であったことと、龍馬が必ずしも平和主義者でなかったことを資料の中から明らかにしています。

一方でもっとも動機があったとされるのは、「いろは丸事件」で龍馬に巨額の賠償金をむしりとられた紀州藩とされます。いろは丸が高価な鉄砲を運んでいたという事実はなく、龍馬は史上最大の「あたり屋」とまで言われるほど。しかし機会があったかどうか。

動機と機会という点では、京都見回組を配下としていた会津藩が最有力とされるのですが、著者は偶発的な事件であったという可能性も捨ててはいないようです。龍馬ほどの大人物が暗殺された背景には、よほどの陰謀と黒幕があったに違いないという「願望」を捨てて、虚心坦懐に資料に当たるべきというのですが、これまたもっともな意見でしょう。

著者は、第1部で龍馬の背景と業績を丁寧に評価し、第3部で自筆書簡から龍馬の性格を推理しています。これらの作業があってはじめて、第2部の「龍馬暗殺の推理」が説得力を持ってくるわけです。著者の推理の正否は別にして、「歴史に対して真摯に向き合う」というのはこういうことなのでしょう。

2018/3