りぼんの読書ノート

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アレトゥサの伝説(柘植久慶)

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副題に「地中海世界の十字路シチリアの物語」とあるように、古代から現代にかけてのシチリアの歴史を綴った本です。現代のシチリア島シラクサを訪れた「私」になぜか泉の女神アレトゥサが降臨して、2800年に及ぶシラクサの歴史を、それぞれの時代の君主の治世や英雄の軍事活動を中心に語るといった趣向なのですが、このスタイルをとった意味がよくわかりません。

たとえば塩野七生さんの『ローマ人の物語』では、時にはカエサルなどの登場人物に惚れこみながら、「現代の思想や宗教を排除した歴史観」をもって史実を再評価するとの意気込みが全編にみなぎっているのですが、本書に登場するアレトゥサ神は、貨幣に刻まれた自分の姿を非難したり、どの男が良かったとか、どの女が悪かったとか、井戸端会議のおばちゃん的なことしか語っていないんですね。

ひとつの場所の歴史を物語として語った本としては、エドワード・ラザファードの『ロンドン』がありますが、比較するのも申し訳ない。ただ著者は貨幣に詳しいようで、時代を象徴する貨幣の写真は見ていて楽しいものです。

ともあれ、世界でいちはやく100万都市となったシラクサが魅力ある歴史を持った街であることに変わりはありません。ただ、その魅力のピークは地中海が世界の中心であったギリシア・ローマ時代ですね。魅力の残滓が残っていたのも、対イスラム攻防戦が戦われた中世初期まで。大航海時代となり大西洋が世界の中心となってからは、急速に輝きを失い、軍勢が通過したり、時の権力者に収奪されるだけの街に成り下がってしまいました。

ただ、統一イタリアに併合された19世紀半ば以降、イタリア本国による圧制を逃れた人々によって結成されたシチリアン・マフィアが、増大する新大陸への移民に混じってアメリカで根を伸ばしたことは、あまりにも有名です。簡単にシチリア史をレビューしておきましょう。

紀元前8世紀:ギリシアコリントスの植民者たちがシラクサ入植開始

紀元前5世紀:スパルタと組んでアテナイシチリア遠征部隊を撃破

紀元前4世紀:僭主ディオニュシオスの対カルタゴ戦争。シラクサシチリア島全域を支配

紀元前3世紀:ローマのシラクサ包囲によって陥落。ローマの版図に入る。アルキメデス死亡

439年:ヴァンダル王ゲイセリックによる支配

535年:東ローマ帝国によるシチリア奪還

878年:イスラムによるシラクサ包囲戦。イスラム支配の開始。首都はパレルモ

1028年:東ローマの将軍ゲオルギオス・マニアケスがシラクサを再征服

1130年:ノルマン人によるシチリア王国成立

1194年:神聖ローマ皇帝ハインリヒ6世によるシチリア征服

12~18世紀:神聖ローマ帝国アンジュー家アラゴン家、ハプスブルグ家支配の後、ブルボン家支配下

1816年:ナポリ王国と合併、両シチリア王国の成立

1860年:統一イタリア王国によるシチリア併合

1943年:連合軍のモントゴメリー将軍シチリア侵攻

2009/4