りぼんの読書ノート

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黄色い雨(フリオ・リャマサーレス)

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沈黙と記憶に蝕まれて、すべてが朽ちゆく村で、亡霊とともに日々を過ごす男。「悲しみ」や「喪失」といった言葉はこの小説には必要ない。「悲しみ」や「喪失」は、ここには空気のように偏在しているから。なのに、なぜ、すべてがこんなにも美しいのだろう? ・・・柴田元幸
柴田元幸さんの解説にある一文が、本書の本質を見事に説明しきっていて、この上さらに付け加える言葉は必要ありません。でもそれだけではレビューにならないので、蛇足的な感想を書いてみましょう。

内乱で戦った息子たちが戻ってこなかった後、過疎化が進んだスペインの深い山中の村。最後に残った夫婦は支えあおうとしますが、妻は孤独に耐え切れず、自ら死を選びます。ひとり残された老人は、老いた雌犬とともに、既に失われた村でただ時をすごします。

やがて死者と過去が生活を侵食していき、老人は死を迎える準備を始めます。雌犬が孤独に侵されないよう撃ち殺し、自らを墓穴に入れてくれる人を待ち続けるのです。やがて老人を探して廃村に入ってきた男たちは、ベッドの上の遺体を発見するのでしょう。

では、この物語を語っているのは誰なのでしょうか。もう、そんなことは気にしなくてもいいのかもしれません。ここには「死」も、空気のように偏在しているのです。

前作狼たちの月では、内戦の後で山岳に逃げ込み、仲間が次々に殺された後もひとりで山中に暮らした青年の孤独を描いた著者ですが、本書では老人が村に留まる理由は説明されず、ただ単純に死者と過去に取り込まれてしまったかのようです。詩人の描く孤独は、よりいっそう研ぎ澄まされてきたのでしょう。

2008/9