りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

エレンディラ(ガブリエル・ガルシア=マルケス)

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「大人のための残酷な童話」として書かれたという短編集です。荒唐無稽な物語ばかりのようですが、リアルな世界に紛れ込んでくるからこそ、マジカルな存在が際立ちます。高校時代に読み、百年の孤独族長の秋よりも「マジック・リアリズム」の破壊力を実感させられました。とりわけ冒頭の作品の、見世物になった「老いぼれた天使」のイメージにショックを受けた記憶があります。

「大きな翼のある、ひどく年取った男」
大きな翼を持つ年老いた男が庭先で捕らえられ、鶏小屋で飼われることになります。天使とおぼしき存在が村で評判の見世物になって、やがて持て余されていくという偶像破壊力は強烈です。数年後に天使は飛び去ってくれて、飼い主も読者も安堵。^^

「失われた時の海」
いつもなら海が荒れる時期になっても、この年に限っては穏やかで、バラの香りすら漂ってきます。海中にあったのは、時空を超越したような死者の町。『族長の秋』で、独裁者が外国の債権者に海を売り渡した時のエピソードが連想されます。

「この世でいちばん美しい水死人」
浜辺に漂着したあまりにも大きくて美しい水死人を巡って、鄙びた海辺の村で騒動が巻き起こります。やがて「これ以上ないほど立派な葬儀」が執り行われ、水死人は海に返されていきます。「老いぼれた天使」の逆バージョンのような世界です。

「愛の彼方の変わることなき死」
まだ40代なのに6ヶ月後の死を宣告された上院議員が若い娘と恋に落ちます。死を意識する男が貞操帯をつけた娘と添い寝するとのイメージは、『族長の秋』にも登場しますね。あちらはとても死にそうにないパワフルな独裁者ですけど・・。

「幽霊船の最後の航海」
毎年同じ日に海岸に現れては難破を繰り返す巨大な幽霊船を見ることができるのは、村の少年ただひとり。彼の言葉を信じず馬鹿にした村人に、少年が仕掛けた復讐は、幽霊船を誘導して岩礁を避けさせ、海辺の村に衝突させることでした。

「奇跡の行商人、善人のブラカマン」
不思議な力を持つ行商人に拾われて拷問にかけられた結果、死者を甦らせる能力を持つに到った少年が仕掛けた行商人への復習とは・・。超絶の能力を持っているのに貧しいその日暮らしをしている行商人というのが、南米っぽいイメージです。

「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」
不始末から家を全焼させた償いとして、無情な祖母によって数え切れないほどの男の相手をさせられる少女。彼女を愛するようになった男は、祖母を殺して少女を自由にしようとするのですが・・。でもこの物語は「2人は末永く幸せに」とはなりません。

2011/11再読