りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ソーラー(イアン・マキューアン)

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若き研究者時代に舞い降りてきたインスピレーションで、ノーベル物理学賞を受賞したものの、その後はずっと鳴かず飛ばずで、研究所の名誉職を務めたり、講演会で小金を稼いできた初老の男、マイケル・ビアードが主人公。

彼は、「なんとなく感じの悪い、ちび、でぶ、禿げで、頭はいいという男の種族、どういうわけかある種の美女にもてたりする」という外見描写に加えて、食欲と性欲に突き動かされる自堕落な性格もあり、現在は5番目の妻と離婚寸前。

妻の浮気相手と自宅で偶然出くわしたところ、研究所の部下であった相手の男が事故死してしまい、嫌疑を逃れるために別の男を犯人に仕立てあげる工作を行い、さらには事故死した男のメモから太陽光発電のアイデアを盗用して、ビジネスを立ち上げようとするのですが・・。

マキューアンさんに「情けないインテリ」を描かせたら天下一品ですね。プライドは強くて議論には強いものの現実の問題には対応できず、見ないふりをすることによって問題を先送りして、もちろんそれでも問題はなくならないので、ますます自分を追い込んでいってしまう様子がコメディ・タッチで描かれます。このあたり、愛の続きにもアムステルダムにも共通するものがあります。

自分の問題は先送りする男が、太陽光発電事業を売り込むために「地球温暖化の問題を先送りするな」と大演説を打つあたりは、いかにもアイロニカル。

物語はマイケルの破滅に向かって、9年後へと進んでいきます。いったい彼に破滅をもたらすものは、殺人事件の犯人に仕立て上げた男なのか。死んだ研究員から盗んだアイデアなのか。酔って結婚を約束した性悪女なのか。手首に浮かんだ不吉な腫瘍なのか。

笑いの中にひとりの男の人生の悲哀が浮かび上がってきて、さらには現代社会の矛盾と滑稽さにまで読者の想いを引きずりこんでいくのですから、やはり上手です。

2011/11