りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

族長の秋(ガブリエル・ガルシア=マルケス)

イメージ 1

この本を読んだときには、まず文体に驚きました。段落も切れ目もなく、時には誰なのかもわからない複数の人間が、延々と一人称で語り続けているのですから。時間軸も混乱していて、まるで悪夢的な世界。

では、これは誰の悪夢なのでしょうか?大半は死せる独裁者が語っているものの、本書の真の語り手はラテン・アメリカの荒廃した国家や国土そのものであるように思えます。つまりは、国家的な悪夢?

強いてストーリー的なものをまとめると、貧しい娼婦から生まれて軍に入った男があくどい手段で昇進を重ね、内乱に干渉してきた外国に担がれて大統領に上り詰め、ライバルを虐殺して恐怖独裁制を打ち立てた後は、気の遠くなるほど長い年月の間、怖ろしい孤独感に苦しみながら支配を続け、ついに死を迎えるという物語。

しかしこの独裁制が「濃い」のです。予知能力を持ちながら暗殺や反乱を恐れ、無数の愛妾に囲まれながら純愛を望み、八百長宝くじの秘密を知る2千人もの子どもたちを荷船に乗せてダイナマイトで吹き飛ばし、借金のカタにカリブ海アメリカに引渡したりするのですから。

母親以外は誰も信じられず、死ぬことすらもできない宿命にとらわれて生きていく独裁者の歪んだ意志は、側近たちの手でさらに歪んだ形で実現していきます。当の独裁者だけを置き去りにして・・。

南米の独裁者の肖像は、バルガス・リョサチボの狂宴ではリアルに描かれ、ジュノ・ディアスのオスカー・ワオの短く凄まじい人生ではSFのように扱われていますが、先駆的作品である本書では、まるで神話的世界のようです。

2011/11再読