りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

味比べ 時代小説アンソロジー(大矢博子/編)

書評家として時代小説にも詳しい編者による「食べ物をテーマとした時代小説アンソロジー」です。「食べる」という行為は、人間生活の基本であるにもかかわらず、いや基本であるが故にか、時代や身分、環境、職業によってさまざまな意味を有しているようです。

 

カスドース西條奈加

江戸の菓子職人が作った菓子が、平戸藩の門外不出の製法を盗用したものであると訴えられます。別の材料を用いて同じ味を再現する工夫が語られますが、その職人はなぜ行ったこともない平戸の菓子を模倣できたのでしょう。『まるまるの毬』に収録されている短編であり、最近読んだばかりでした。

 

食客ひだる神」宮部みゆき

評判の弁当屋が夏場に店を閉めてしまう背景には、怪異であるのに微笑ましい事情があったのです。食事の美味しさを誰かと分かち合うことは、幸せのひとつの形ですね。たとえ相手が妖であっても。『三島屋変調百物語四之続 三鬼』に収録されている短編で、これも再読でした。

 

「大根役者」梶よう子

小石川御薬園を管理する御薬園同心が、太りすぎの役者のダイエットに協力する物語。確かに野菜中心の食事は効果ありそうですが、日ごろ厳しく身を律している同僚にも事情があったようです。『桃のひこばえ 御薬園同心水上草介』に収録されている作品だそうです。

 

真桑瓜」青山文平

老人どうしの刃傷沙汰の背景には、数十年前に起こった悲しい出来事があったのです。長年耐えていた邪心を解き放ったのは、ある食べ物に関わる思い出でした。目付職にある同心の青年を主人公とし、毎回季節の料理が登場する連作の『半席』に収録されているとのこと。

 

「ぜんざい屋事件」門井慶喜

過激派浪士の隠れ家の疑いがあるぜんざい屋に間者として送り込まれた賄方は、独特の味付けから一味が土佐藩脱藩浪士であることを見抜きます。しかしその彼も自分の妻と思っていた女性の真の姿を見抜くことはできなかったのです。新選組の賄方であった隊士を主人公とする『新選組の料理人』の一編です。

 

2023/5