りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

まるまるの毬(西條奈加)

若い頃に諸国を回って各地の銘菓を学んだ治兵衛は、武士から菓子屋に転身した変わり種。驚異の記憶力を持つ出戻り娘のお永と、花嫁修業中の看板娘である孫のお君と、親子三代で営む「南星屋」は、小さいながらも繁盛しています。

 

それでも一家にさまざまな難題が降りかかってきます。平戸藩門外不出のカスドースの製法を盗み出した疑いがかけられたかと思うと、菓子屋になりたいとう武家の倅が飛び込んできたり、浮気して離縁されたお永の元亭主が縁りを戻そうとしてきたり、お君が武士からプロポーズされたりと、かなりの忙しさ。そのたびに、四谷の寺で重職をしている治兵衛の弟の助力や、その時々の気持ちを込めた菓子の工夫で乗り切ってきたのですが、やがて治兵衛の実家である武家や弟の住職を巻き込む最大の危機が訪れます。それは治兵衛が抱えていた出生の秘密が原因だったのですが・・。

 

祖父である治兵衛の視点が中心ですが、娘であり母親でもあるお永や、孫娘であるお君の心情もしっかり書き込まれている良質なファミリードラマです。それにしても各章のタイトルとなっている和菓子が、どれもおいしそうなこと。『亥子ころころ』という続編では、南星屋に新しい仲間が増えるとのこと。家族のバランスは崩れないのでしょうか。そちらも読んでみようと思います。

 

2023/3