りぼんの読書ノート

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春色梅児誉美(島本理生訳)日本文学全集11

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ナラタージュでダメ男との恋愛を受け入れて昇華させてしまった著者が、為永春水作の「江戸期のダメ男を美女たちが奪い合う人情本」を女性目線で書き換えてくれました。

遊女屋「唐琴屋」の養子で美青年の夏目丹次郎は、養父母の死後、悪番頭の悪巧みで罪に陥れられそうになって逐電。彼の隠棲生活を支えているのが、深川の売れっ子芸者の米八。一方で、丹次郎の義妹で許嫁にあたる唐琴屋の娘・お長もまた家を追い出されて、女義太夫になりながら、丹次郎を慕い続けます。さらに、2人の美女だけでは飽き足らなかったのか、丹次郎は別の芸者・仇吉と浮気するというダメ男ぶり、

さすがの島本さんも本書を訳しながら「なんでこんなダメ男を美女たちが取り合うの?」と疑問に思ったそうですが、池澤さんは「平和が続いた江戸時代末期において、緊張感のなさやだらしなさが極まったから」と解説しています。このあたり、現代日本でも同じ状況と言えそうです。

途中までドロドロの展開になるのですが、最後に強引にハッピーエンドに持っていく剛腕ぶりが発揮されます。丹次郎は身分ある武士の隠し子であることが明らかになり、無実の罪は晴らされ、悪番頭はお縄になり、ついでに女義太夫のお蝶をいびっていた雇い主のお熊はフグにあたって死亡。米八を口説いていた豪商・藤兵衛は、武家からの依頼で丹次郎の身分を探るついでに、米八の真情を試していたというのですから。ついでに彼も、昔の恋人で髪結いとなっていたお由との再会まで果たします。

肝心の恋のさや当てといえば、お長が正室に直り、米八が愛妾となることで落着。仇吉は藤兵衛に言い含められて身を引くのです。そして、お由、米八、お長に加えて、米八を陰で応援していた芸者・此花を加えた4人の美女たちは、一つの枝に咲く梅の花のように、末永く仲良く暮らしましたとさ・・という物語。あまりの都合の良さに、感心してしまいます。

ところで、浮気がバレた男の言い訳や、女の問い詰め方というのは、いつの時代でも変わらないものなのですね。

2016/8