りぼんの読書ノート

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通言総籬(いとうせいこう訳)日本文学全集11

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洒落本全盛期の天明年間に刊行された、山東京伝作『通言総籬(つうげんそうまがき)』の新訳に挑んだのは、サブカルにも精通している、いとうせいこうさんでした。これまた、適材適所の人選です。

「通言」とは流行語のことであり、「総籬」とは吉原の高級遊郭仕様の格子のこと。要するに、夢の国・吉原の様子を流行の業界用語で描いた作品ということです。登場人物は、大金持ちの放蕩息子の艶次郎、友人の医者で太鼓持ちのわる井志庵、素人幇間の喜之介の3人。先の2人は『江戸生艶気樺焼』にも登場しているので、シリーズ2作めということなのでしょう。

3人で集まり、遊女の噂話で盛り上がった末に吉原に繰り出すのですが、実は主役の艶次郎は全然もてないのです。金はあっても、鼻が大きすぎてハンサムとは言い難く、通ぶるわりにダサイんですね。本書の中でも、遊女に適当にあしらわれてしまい、思いを果たすことはできません。

そんな内容なので、これといったストーリーはないのですが、本書を特徴づけているのが膨大な「言葉の解説」です。流行の業界用語ばかりなので、当時の読者も必要としたのでしょう。いわばオリジナルの『なんとなく、クリスタル』ですね。そこにまた、いとうせいこうさんが「脚注の脚注」をつけるから複雑なのですが、これが結構笑えるのです。現代でも使う「ばからしい」という言葉が、吉原で江戸期から使われていたとは知りませんでした。

2016/8