神々の不死性はナノテクに基づくクローン技術に基づいているようだし、量子変動を自在に操作することが神々の力の源泉のようなのです。しかも神々の居所は、地球化された火星のオリュンポス山なのですから。もっと驚くことに、神々は20世紀の古代地球から歴史学者を復活させて10年に渡るトロイ戦争を観察させ、記録を取らせていたのです。神々の正体も不明ですし、これは未来の出来事のようなので、時代だってぐちゃぐちゃ。
ホメロスの「イリアス」通りにリプレイされていたトロイ戦争でしたが、歴史学者・ホッケンベリーがアフロディテに呼び出され、神の力の一部を使える器具を貸し与えられ、アテネを暗殺するよう依頼されたことから、だんだんずれていってしまいます。「神殺し」など出来るわけもないホッケンベリーは、案の定、進退に窮します。追い詰められて編み出した窮余の一策は、アキレスとヘクトルを和解させ、ギリシャ・トロイ連合軍として、神々に叛旗をひるがえすことでしたが・・。
全てが謎のまま、別の2つの話が並行して進行していきます。かつて人類が木星の衛星に殖民したまま放置し、独自の発展を遂げていた半生物機械モラヴィック(サイボーグのようなものでしょう)たちは、火星周辺での量子変動異常を調査すべく探検隊を発進させます。
一方、地球でわずかに生き残っている人類は、自動機械の下僕たちに保護されながら、怠惰な生活をおくるだけの存在に成り果てていました。この世界の仕組みに疑問を持ったハーマンは、友人たちと、世界の謎をつきとめる旅に出て、オデッセウスと名乗る不思議な男に出会います。
3つの物語が出会うときに、この世界の真相は明らかになるのでしょうか。神々は単なる操り人形であり、神々の背後に居る存在も示唆されますが、本書では読者は断片的な解しか与えられません。また、神々と対峙した英雄たちは、勝ち目のない戦いに突入してしまったかのようです。全ては、2部作の続巻である『オリュンポスス』を待つしかなさそうです。
2007/4