りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

オリュンポス(ダン・シモンズ)

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1週間近く、すっかり「トロイ」の世界に入り込んでしまいました。前作イリアムの続編にあたります。それにしても、最近の読書傾向としてSFが多いようです。癖になりますね。^^;

はるか未来で、謎の神々によって再現された「未来のトロイ戦争」は、20世紀から復活させられた歴史学者ホッケンベリーの窮余の一策でホメロスの世界から大きくズレていってしまいました。進んだ科学技術を持つモラヴィック(木星移民子孫のサイボーグ)の支援を得たギリシャ・トロイ連合軍と、ギリシャ神話の神々との戦いは、膠着状態に入りますが、英雄たちの間にも神々の間にも、不和が広がり事態は混乱を深めるばかり。

どうやら量子変動を自由自在に弄んでいる存在がいるようですが、その正体も意図もわからないまま、量子崩壊の臨界点が迫ってきます。そんなことになったら、不死の神々だって存在できるはずもない! そんな中、地球でわずかに生き残って邪悪な存在に飼いならされていた人類が自らの運命を切り開こうとし始めると、背後に隠れていた存在がついに姿を現してきます。

う~ん。ここでシェークスピアの『テンペスト』ですか。人間知性の総体が「プロスペロー」で、自然の精「エアリアル」を従え、魔女「シコラックス」と、その邪悪な息子「キャリバン」が敵役で、ポストヒューマンの生き残りの女性が「ミランダ」ときましたか・・。

壮大なスケールの物語ですが、後半は一気に読ませてくれます。自ら討ち取ったアマゾンの女王・ペンテシレイアに恋したアキレスの話や、オデッセウスを引き止められなかった魔女キケロ(シコラックス)といった「正統ホメロス」エピソードをキーポイントで使うあたり、さすがです。謎を残したままのラストには、少々欲求不満ではあるけれど、このレビューも『テンペスト』のミランダの言葉で締め括りましょう。「人間って、こんなに美しい! ああ、素晴らしい新世界!」

2007/4