りぼんの読書ノート

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フィッシュストーリー(伊坂幸太郎)

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表題作『フィッシュストーリー』は、『死神の精度』のラストを髣髴とさせる「運命の連鎖」を感じさせてくれますが、肝心のスタートポイントについては、何も触れてくれませんね。

「晩年は廃屋にこもり、壁に文章を書き続けた日本人作家の遺作」から始まる物語は、いったい、どんな時代の、誰の話なんでしょう。ひょっとして、伊坂さんの将来でしょうか。ともあれ、ある文学作品が出発点となって、解散寸前のバンドの最後の一枚のレコーディング風景に続き、そこに巧まずして仕掛けられた「空白の時間」が女性を救うことになり、最後には人類が救われてしまうのです。^^

でもこの作品、技巧に走ってしまったラッシュライフと同様に、登場人物がそれほど魅力的じゃないんですね。伊坂さんの作品では「ちょっとズレた理想主義者」が世間の常識を超えた活躍をするに至る、その過程が魅力なんですが、結果だけ聞いてもアレッという感じ。売れないバンドのマネージャーの岡崎には、そんな香りが漂っていたのですが、やはり短編では、人物を描ききるには至らないのかな。

そういう意味では、『ポテチ』に登場する、今村の、飄々としたキャラのほうが伊坂さんらしい作品になっているのかもしれません。

例の「あの人」も、本来の役どころは「ちょっとズレた理想主義者」である主役に対して、しっかりスパイスを利かせて脇を固めるようなキャラですね。彼を主役にしてしまうと並みのハードボイルド作品になってしまうだけ・・との印象です。

2007/4