りぼんの読書ノート

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わたしは英国王に給仕した(ボフミル・フラバル)

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20世紀のチェコを代表する作家のひとりである著者が、1971年に書き上げながら、長らく国内での出版を禁じられていた作品です。百万長者を夢見る給仕人が波瀾万丈の半生の末に夢を叶えるに至る物語ですが、その中核をなしている部分がナチスによるチェコ占領時代。ソ連によるチェコ占領に対する批判の書とも読めるのです。

 

とはいえ、その語り口はシュールでコミカル。給仕見習い時代に駅でのソーセージ売りで釣銭を払わない方法や、初めて行った「天国館」で天にも昇る経験をしたことや、胡散臭いセールスマン客とのやりとりは捧腹絶倒もの。次に働いたホテルで「私は英国王に給仕したことがある」を口癖にする給仕長から仕込まれ、やがてエチオピア王に給仕するまでに至ります。しかしそこにドイツ人たちがやってくるのです。

 

ドイツ占領下での振る舞いは決して褒められたものではないものの、戦後には念願の百万長者への仲間入り。しかしソ連支配体制下では投獄されて全てを失い、最後には国境近くの山中で道路補修の仕事に就いて、自分の人生を総括する本書の物語を綴るという構造。

 

しかし本書の素晴らしさは、やはり語りの文体と物語の内容が見事に一致していることにあるのでしょう。村の古老による童たちへの昔語りを聞く感覚で、最後まで読めてしまうのですから。このレビューも主人公の口癖で締めてみましょう。「満足してくれたかい? 今日はこのあたりでおしまいだよ」と。

 

2019/7