りぼんの読書ノート

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潮鳴り(葉室麟)

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蜩ノ記』に続く、「豊後羽根藩シリーズ」の第2作です。かつては藩の俊英と謳われながら自尊心から役目をしくじって失職し、「襤褸蔵」と呼ばれる無頼暮らしをしている伊吹櫂蔵が、再起に至る物語。

 

再起のきっかけは、家督を譲った異母弟が切腹をして果てたことでした。弟の代わりに再び出仕を命じられた櫂蔵は、切腹の原因が借銀を巡る藩の裏切りにあると知り、弟の無念を晴らすべく立ち上がります。とはいえ一度周囲からの信用を失った者が、藩上層部の不正になど手が届くはずもありません。辛い試練の時は続くのです。

 

櫂蔵に対して最も手厳しかったのは義母の染子でしたが、やがて彼女の心も動かされます。そのきっかけとなったのはやはり落ちるところまで落ちながら、櫂蔵が妻にと臨んだお芳という女性でした。元三井の番頭だった咲庵を含めた「転落3人組」が再生へと向かうことができたのは、「誰かのために」という気持ちであったに違いありません。決して全員がハッピーエンドを迎えられる訳ではないのですが、3者の過去が再起への伏線となる展開は痛快です。

 

2019/7