りぼんの読書ノート

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カメレオンのための音楽(トルーマン・カポーティ)

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ティファニーで朝食を『冷血』の成功で文学界の寵児となりながら、その後は創造に悩み、アルコールと薬物中毒に苦しんだ著者が、晩年に書き上げた短編集です。

第1部は、表題作を含む6篇の短編から成り立っています。カリブ海の小島に住む貴族の老夫人が弾くモーツアルトピアノソナタを聴くために集まってくるカメレオン。いつの間にか行方不明になってしまった老人。冷凍庫に異様なものを貯蔵しているネコ好きの老女。同居していたストリッパーに身ぐるみはがされて砂漠に置き去りにされた盲目の男。後に殺人事件を起こして死刑となる邪悪な少年。いたるところに狂気と暴力が潜んでいることが暗示されているのです。

第2部の中編「手彫りの柩」は、『冷血』を彷彿とさせる犯罪小説です。語り手であるTC(著者)は、奇怪な連続殺人事件を執拗に捜査する刑事にインタビューするうちに事件に巻き込まれていくのですが、最後まで平然としている容疑者が犯人であるかどうかは明らかにされません。ミステリ小説のような展開と、不完全な結末が、不気味さを増しています。

第3部は会話を中心とする7編のポートレートからなるのですが、出色はマリリン・モンローの死を知った著者が、かつて彼女と交わした会話を描いた「うつくしい子供」でしょう。奔放ながら機知的な会話を楽しみながらも、どこか危ない感じが漂う女優を「孤児院に入れられた不遇を悲しんでいる12歳の少女」と形容する著者の視点は、彼女の魅力を余すことなく伝えてくれているようです。

2018/5