りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

標的(真山仁)

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日本に女性首相が誕生する日は来るのでしょうか。48歳という若さと美貌に加え、政治への情熱と清廉潔白さを併せ持つ越村みやび厚労大臣が総裁候補に名乗りを上げた時に、思いもよらない収賄疑惑が東京地検に持ち込まれます。果たして彼女はクロなのか、それとも政敵の陰謀なのか。売国に登場した東京地検特捜部の富永と、コラプティオに登場した新聞記者の神林がそれぞれ事件を追いかけます。

越村厚労大臣が力を入れていたのは、「サービス付き高齢者住宅法案」の改正でした。本来は、低額で老人が入居できる民間サービスの充実を目指した法律が、低質で過剰な医療・介護サービスを提供する悪質業者を繁殖させてしまっていたのです。しかし悪質業者を排除する目的の規制強化策は、逆に高級サービスを提供できる会社による寡占に繋がらないのでしょうか。越村大臣が政策を相談していたパートナーである事業会社からの贈収賄はなかったのでしょうか。

越村大臣の弱点は、金沢にある老舗酒造店の実家を守る夫であるように思えます。養子に入った夫が当主として老舗は、経営難に陥っていたのです。その夫婦の絆を断ち切るような不倫疑惑の報道すら発生。しかし彼女を守る最後の防波堤こそが夫でした。富永ははたして次期総理に上り詰めようとしている大臣を、起訴に持ち込めるのでしょうか。

なかなか感想が難しい作品です。魅力あふれる女性大臣の秘密が次第に暴かれていく半面、彼女を罠に嵌めようとしている政敵が皆、権謀術数を操る狸親父ばかりなのです。現実社会での選択もこのようなものでしかないと思うと、政治の世界の難しさを痛感してしまうのです。

2018/4