りぼんの読書ノート

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セレス(南条竹則)

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「仙人小説」なる不思議なジャンルの作品を書き綴っている著者が、20年近く前に書いた「サイバーパンク版の封神演義」です。

マンダリン社が開発した仮想現実空間は、長安などの古代都市を模した「セレス」と、特殊なソフトにより神仙の神通力を使える仙境の「大セレス」の2つのレベルからなっていました。マンダリン社と提携した日本のマーリン社から派遣された研究員の幸田は、大セレスで暮らす西夫人と恋に落ちてしまいます。彼女は現実空間では死を前にした高齢の女性なのですが、もはやそんなことに意味はありません。

ところが「大セレス」では二大勢力が対決を始めてしまうのです。一方は「元始天尊」を名乗る世界的財閥の総帥で、もう一方には「通天教主」を名乗るハッカーらしき謎の人物。元始天尊は高名な神仙名を名乗らせる部下たちを率い、通天教主は人工生命やコンピュータ・ウイルスに仙術を使わせて、封神対決は全く互角の勝負。

このあたりは、オリジナルの『封神演義』の仙界が、人間出身の「闡教」と、動物・植物・森羅万象に由来する「截教」に二分されていたことを踏まえているのでしょう。

本来であれば、仮想現実空間のオーナーであるマンダリン社の創始者・李順天が「太公望」役を引き受けて全てを統制すべきなのですが、彼はそれどころではありませんでした。寿命が到来しつつある脳を電子化して、魂を保存する研究が急を要していたのです。彼が到達した結論は、「いったん死ななければ転生できない」ということだったのですが・・。

大混乱の中で西夫人を守ろうとする幸田は、たちまち自由を奪われてサブキャラになってしまいますが、彼の役割は「大セレス」の紹介で終わっていたのでしょう。小説としての完成度はともかくとして、バーチャル空間と神仙世界の相性の良さには感心しました。

2017/3